「えどどころ」の起原をゲノム解析で解明 忘れられた作物の栽培振興へ 京大

京都大学は10日、青森県三八上北さんぱちかみきた地方で栽培されていた幻の作物「えどどころ」の起原を、ゲノム解析によって明らかにしたと発表した。えどどころはヤマノイモの一種で、江戸時代の文献に記載がある。現在でも青森県東北町の農家が「ところ」を栽培していることがわかり、その全ゲノム配列を解読して起原を調査した。

植物学者の牧野富太郎の記述では、青森県八戸でえどどころが栽培されており、そのイモを取り寄せて育てるとヒメドコロという野生植物が生えてきたことから、自身の日本植物図鑑では、えどどころをヒメドコロの別名であるとしている。それ以降、えどどころの報告は途絶えていた。

京都大学農学部 寺内良平教授らの研究グループは、青森県八戸市の市場で、通常のオニドコロと形状の異なる塊茎が「ところ」という名称で販売されていることを見出した。この作物は現在は青森県東北町の4軒の農家のみが生産栽培しており、代々イモを植え継ぐことにより継承されてきた。

このイモを系統「ハチ1」と命名し栽培すると、オニドコロと近縁種のヒメドコロの中間の性質を示した。「ハチ1」の全ゲノム解析を行い、オニドコロとヒメドコロのゲノム配列と比較したところ、両方のゲノムを含んでいることがわかった。この結果から「ハチ1」はオニドコロとヒメドコロの雑種第一代に、さらにオニドコロが交雑してできた個体であると推定された。さらに、ミトコンドリアゲノムの解析からも同様の結果が示された。

これらのことより、青森県東北町で「ところ」の名称で栽培されている「ハチ1」系統はえどどころであると考えられる。オニドコロは日本全国に、ヒメドコロは関東以西に分布している。えどどころはおそらく江戸時代に江戸で作られて各地に広がり、現在は青森県三八上北地域でのみ栽培が残っていると考えられる。

オニドコロやヒメドコロはサポニン類を含み、健康機能性を持つ。八戸で「ところ」はローカルフードとして珍重されていて、栽培をさらに拡大して特産品とすることが期待できる。

寺内教授は、えどどころのような忘れられた作物が途絶えてしまう前に調査・記録し、遺伝子資源の保全をはかり、栽培の振興を図ることが重要だとしている。この研究成果は7月26日に国際学術誌「Plant and Cell Physiology」にオンライン掲載された。

エドドコロのイモと栽培(左)、トコロの仲間の3種類の植物(中)、エドドコロの起源の解明(右)

画像提供:京都大学(冒頭の写真はイメージ)