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書評『内なる平和が世界を変える』シーラー・エルワージー

戦争、紛争、クーデター、差別、虐待、人権侵害、環境破壊。世の中には解決すべき問題や争いが多発している。それらは身近なところで起こっている場合もあるし、遠い国で起こっていてメディアで知ることもある。

どちらにしてもそれを解決する手助けをしたいと何かしらの行動を起こす人もいるだろう。その場合、どういう解決方法をとるのか。たいていは募金活動、現地支援、SNSなどを通じて反対の声を拡散するなど、自分よりも外部の人を動かすことに注力する場合が多いように思う。特に最近は、問題意識から「声を上げないと」「すぐに動かないと」「現状をより多くの人に伝えないと」と焦り、周りの人に働きかけ、周囲を巻き込んで、何かしらの運動に発展させようとするような傾向がある。

本書はそういう行動自体を重要視するのではなく、まずは自己の内面と向き合うことを勧めている。著者のシーラー・エルワージー氏は半世紀にわたり非暴力の平和活動に献身し、その功績から、ノーベル平和賞に3度ノミネートされている。

現在必要とされているリーダーにはカリスマ性や流暢な弁舌だけが必要なわけではない。これらの力は内面から支えられているのであり、ただ「自己の内面をしっかり統率することから始めなければならない」と著者は語る。

そして、「自己認識の質」が、生み出される結果の質に直接影響するということを理解し、宗教でも瞑想でもなんでもいい、自分に合う方法で自己と向き合う時間を持つべきだ。その結果、意識の跳躍が起こり、力強く新しい未来のために行動を起こせるようになる、と述べている。

彼女は幼い頃から、苦しんでいる人々のために何かしたいと難民キャンプで暮らす人々が休日を過ごす施設で働いていたという。大学卒業後、南アフリカでの飢餓救援活動をしたり、軍縮の活動を行ったりしていた。そんなある日、突然ひらめいたのは「核兵器使用の判断をする人間に直接会いに行き一対一で話してみよう」ということだった。意思決定権を持つ人間に接触するため、専門知識を勉強し、対話の技術を身に着けた。

最終的には20年近くかけて中国と英米の防衛政策決定者の間をつなぐ架け橋づくりに取り組み、一定の成果を得るまでになったという。これらの活動を通して、政治問題などの外面の仕事を続けていくためには、内面の力を十分に発揮できるかどうかが大事であると学んだと述べている。

本書には著者のほかに、内なる力・精神的可能性の持つエネルギーに目覚め、社会変革におけるもっとも重要な要素は自己認識であると分かり、意識の跳躍を経験し、直面する問題を的確な行動で変容させる力を得た人々も紹介されている。

今はSNSなどで自分の主張を一瞬にして拡散できてしまう。しかし、大きな問題を解決するには長期間活動できる根本的なパワーが必要である。そのために、一人一人が自分自身を見つめなおす時間を大切にし、表面的ではなく心の内側から動くパワーを得たいものだ。

内なる平和が世界を変える

著書:シーラー・エルワージー

監訳:伊藤守

翻訳:城下真知子

発行者:干場弓子

発行所:株式会社ディスカーヴァー・トゥエンティワン

発行年:2016年12月23日

(冒頭の写真はイメージ)