深海に生息する貝が共生細菌により栄養を得る仕組みを解明 タンパク質が鍵

深海に生息する貝が共生細菌により栄養を得る仕組みを解明 タンパク質が鍵

海洋研究開発機構は24日、深海に生息する二枚貝シンカイヒバリガイが、栄養を供給してくれる微生物を自分の細胞内で維持するメカニズムを解明したと発表した。深海に住む貝が何も食べずに生きていける理由が明らかになり、生物の細胞内共生において新たな知見が得られた。この研究成果は米国科学誌「Science Advances」に掲載された。

深海の熱水域やメタン湧水域は、生物多様性保全のため沖合海洋保護区候補地の重要海域に指定されている。これらの水域には二枚貝などの生物が生息している一方で、レアメタルを含む鉱物やメタンハイドレートなどの有用資源が存在している。これらの水域に生息する生物の生態を把握することは、資源開発と生物多様性の保全を両立するための重要な課題となっている。

これらの水域に生息する動物の多くは、体の細胞内に化学合成細菌(共生細菌)を持っていて、共生細菌が作り出した有機物を栄養としてもらって生きている。しかし宿主動物が、共生細菌をどのようにして獲得・維持しているのか、どのようにして共生細菌から栄養を得ているのかについては、これまで不明だった。

海洋研究開発機構、北里大学、福井大学、北海道大学、福岡女子大学の研究グループは、これらの水域で個体数が多いシンカイヒバリガイ類に着目し、相模湾初島沖深海域(水深約900m)に生息するシンカイヒバリガイを採取し、解析を行った。

その結果、シンカイヒバリガイがエラ細胞の食作用によって形成された食胞の中に共生細菌を包み込んでいることがわかった。また、この共生細菌を包む食胞の膜の表面に存在するmTORC1(エムトークワン)と呼ばれるタンパク質複合体が、共生細菌から提供される有機物を検知して、共生細菌の維持と分解をコントロールしていることも明らかになった。mTORC1は真核生物が普遍的に持っていて、細胞内の栄養状態を見張って細胞の様々な機能を制御する司令塔として働くほか、細胞分裂や老化・寿命にも深く関与していると考えられている。今回の研究で、このタンパク質が細胞内共生系においても重要な働きをしていることが初めて証明された。

シンカイヒバリガイ類の細胞内共生

シンカイヒバリガイ類の細胞内共生

この成果により細胞内共生においてのmTORC1の重要性が明らかになったが、昆虫など他の動物の細胞内共生系においても同様なことが行われている可能性がある。今後はシンカイヒバリガイについてのより詳細な研究を進めていくことで、細胞内共生の成立と維持メカニズムをより明らかにしていくとのこと。

画像提供:海洋研究開発機構(冒頭の写真はイメージ)