
半世紀ぶりの月への旅 ― アルテミス計画が開く新しい宇宙時代
2026年、アメリカ航空宇宙局(NASA)の月探査計画「アルテミス」は新たな段階に入った。有人ミッションであるアルテミスIIが4月1日(米東部時間、日本では2日早朝)に打ち上げられ、4名の宇宙飛行士を乗せた宇宙船が月の周囲を回って10日に帰還する計画だ。宇宙船オリオンや大型ロケットSLSの有人飛行能力を実際の深宇宙環境で確認することが目的で、人類が地球低軌道を離れて月へ向かうのは、1972年のアポロ17以来およそ半世紀ぶりとなる。アルテミスIIは将来の月面着陸に向けた重要な実証ミッションであり、人類が再び月へ戻るための大きな一歩だ。
「到達」から「滞在」へ。アポロ計画との違い
1960〜70年代に行われたアポロ計画で、69年7月に人類は初めて月面に到達し、72年まで計6回の着陸に成功した。「アポロ」はギリシャ神話の太陽神の名で、現在の月探査計画「アルテミス」はその双子の妹である月の女神に由来する。その後、冷戦の終結や予算の問題などから有人月探査は途絶え、宇宙開発の中心は地球周回軌道へと移った。1998年に建設が開始された国際宇宙ステーション(ISS)はその象徴的な存在だ。一方、アルテミス計画はアポロとは目的が少し異なる。アポロが「月に到達すること」自体を目標としていたのに対し、アルテミスは月に長期的な活動拠点を築き、継続的に人類が滞在できる体制を整えることを目指している。つまり今回は「一度行く」探査ではなく、「宇宙で暮らし活動する」時代への転換を意図した計画だ。
地球の保護圏を離れる「深宇宙」での実証
現在人類が常駐しているISSは地表から約400kmの低軌道にあり、地球の磁場に守られた環境にある。しかし月へ向かう航行はこの保護圏の外に出る深宇宙探査であり、放射線や長距離通信、長期航行などまったく異なる課題が現れる。アルテミスIIでは宇宙飛行士が地球から最大で約40万km以上離れ、月の裏側を通過する際には一時的に地球との通信も途絶える。これは有人宇宙飛行としてはアポロ時代以来の本格的な深宇宙飛行となる。こうした環境で宇宙船の生命維持装置や航法システムが正常に機能するかを確認することが、このミッションの重要な目的である。ISSより遠くへ行くことは、人類の活動領域を地球周辺から太陽系へ広げるための第一歩だ。
月面着陸、そして火星へと続く挑戦
アルテミスIIの成果を踏まえ、次の段階では宇宙飛行士を実際に月面へ送るアルテミスIIIが2027年以降に計画されている。特に月の南極地域には水の氷が存在すると考えられており、将来の拠点建設や燃料生産の可能性が期待されている。さらに月周回拠点「ゲートウェイ」や月面基地の構想も進んでおり、月は深宇宙探査の前線基地となる可能性が高い。50年前のアポロ計画が人類を初めて月へ導いた「歴史的到達」だったとすれば、アルテミス計画は人類が宇宙で長く活動するための「持続的な宇宙時代」を切り開く試みだ。月への再挑戦は、その先にある火星探査への道をも開こうとしている。
写真提供:NASA(オリオン宇宙船内のアルテミスⅡの乗組員)

