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[書評]『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が問う平和への自己の戦い

「あなたは人を殺しましたか?」―戦場から戻った元兵士に投げかけられた小学生の言葉は、残酷なように聞こえるが、これが彼を救う一言だった。

本書は、ベトナム戦争に従軍したアフリカ系アメリカ人の元海兵隊員、アレン・ネルソン氏の壮絶な体験と葛藤を描いているノンフィクションの証言集だ。初版は2003年。塚本信也監督が映画化し、2026年9月11日に公開された。第83回ベネチア国際映画祭で、イタリアの高校生が選ぶ公式独立賞「レオンチーノ・ドーロ賞(金の小獅子賞)」を日本映画として初めて受賞した。

貧しく乱暴で人生を見失っていた少年は、貧困から抜け出すため18歳で海兵隊に入った。彼は英雄になれると意気揚々としていた。これから向かうベトナムが何処にあり、どのような人が住んでいるのか考えたこともなく。入隊すると、過酷な訓練によって感情をそぎ落とされ、人を殺すことへのためらいや罪の意識が薄れていった。命令に従って人を殺す機械のようになると、ベトナムの最前線に送り出された。

しかし、実際の戦争は想像とは違っていた。灼熱の中で森の中を自分の体重以上の荷物を持って数十キロも歩き、敵がいつ襲ってくるかもわからない恐怖に緊張する日々。初めて人を殺した時、何とも言えない気持ち悪さが彼を襲う。それでも敵を人間とは思わず、村を焼き払い、女子供を含む多くの人を殺し続けた。

ある時、捕虜として捕まえたベトコンが、殺される直前にこう語る。「なぜ、あなたたちは私の国にいて、私達を殺しているのか? 私たちは自由のために戦っている。あなたたち黒人も自国では自由すらないのではないか?」確かに前線で死ぬ兵士は黒人の方が多く、キャンプ地には奴隷の象徴である南北戦争の南軍の旗が立っていた。

決定的に彼の考えを変えたのは、洞窟でベトナム人女性の出産に出くわした時だった。本能的に赤ちゃんを引っ張り、濡れた温かいものを両手につかみ取っていた。その瞬間、今まで人間でないと思っていた敵が、同じ人間であること、そして自分も同じように母の胎から生まれてきたのだということに気が付く。最後に人を殺した時、彼は涙が止まらず、もうこれ以上戦場にはいられなかったという。

帰還後もずっとPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患い、悪夢にうなされるようになったネルソン氏。そんな彼を救ったのは、ある学校でベトナム戦争について講演した時に、一人の子に投げかけられた質問だった。

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」

その問いに、自らの加害を認め告白した時から、彼は人間性を取り戻し、止まっていた時間が回り始める。以後、彼は自らの加害体験を語り、戦争反対の平和活動家への道を歩み続け、最後はベトナムでの枯葉剤(※)の影響で世を去った。

戦争は始めた人以外は皆が被害者であり、人生をそれによって変えられてしまう。生き残れば終わりではなく、兵士を内側からむしばむ悪夢である。世界各地で戦争の火種がくすぶる時代において、真の平和のためにどう戦うべきなのか考え抜くため、触れたい一冊である。

※枯葉剤:ベトナム戦争で米軍が散布した除草剤。猛毒ダイオキシンを含み、深刻な健康・環境被害をもたらした。

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 (シリーズ子どもたちの未来のために)
著者:アレン・ネルソン
発売日 ‏ :  ‎2003年7月31日
発行 ‏ : ‎ 講談社

(写真はイメージ)