【映画特集】SF映画「オデッセイ」プラス原作本で、より面白く!

(冒頭写真:1997年に火星に到着した探査機マーズ・パスファインダー(米国立航空宇宙博物館))

米国で2015年に公開され、2月5日に日本語版の上映も始まったSF映画「オデッセイ」(原題:The Martian)。ストーリーを上映時間内に収めるためには仕方ないのだろうが、原作であるアンディ・ウィアーの小説「火星の人」と比べると重要だと思われるエピソードがかなり省かれている。これを知らないのはもったいない!ということで、原作と映像で描かれた内容を少し比較してみよう。ネタバレが含まれるので、これから観ようと思っている方はご注意頂きたい。

同作品では、第三次火星調査隊(アレス3)のマーク・ワトニー宇宙飛行士が火星に一人置き去りとなり、極限状態でも諦めることなく科学的知識を活用して生き延びようと奮闘する様子と、そんな彼を地球に帰還させるために全人類が団結して救出作戦に取り組む姿が描かれている。いくつか挙げてみよう。

映画では特に説明もなく「ソル」という単語が出てくるが、火星での1日を表している。1ソルはおよそ24時間40分。つまり、ワトニーが火星で毎日同じ時間に行動を起こすと、地球上で衛星を操作してワトニーを見ているミンディは毎日40分ずつ時間をずらさなくてはならないのだが、そういった大変さが映画では描かれていない。

宇宙服に穴が開いたのに生き残った理由を、映画では血液で固まったと説明している。それもあるが、何でもくっつけることのできる補修用の接着剤で応急処置するシーンを映画では描いていない。その代わりに、居住スペースである「ハブ」に戻ったワトニーが、手術台に登って自分で破片を抜き出すシーンは映画だけにあったように思う。視覚的なインパクトを選んだのだろう。

ワトニーが地球と通信できない理由も映画では説明がない。ルイス船長らが、「MAV」という火星から軌道上の宇宙船ヘルメス号まで移動するロケットで緊急離陸する。火星でのミッション中、このMAVとヘルメス号を経由して地球と通信していた。だから、MAVが去った後、ワトニーは地球と通信できなかったのだ。

通信手段を得るために、ワトニーは安全なハブを離れ、火星探査車「ローバー」で23ソルかけて往復約1500kmドライブする。ローバーで向かった先は、1997年に火星に到着した探査機「マーズ・パスファインダー」。ドライブするにもハブと違って酸素や二酸化炭素、水をどうするのか、太陽電池パネルをどうローバーに積むのかなど、原作ではワトニーがいろいろと試行錯誤した上で計画を実行するさまが描かれるが、映画では省かれている。その代わり、砂に埋もれたパスファインダーを見つけ出すシーンが映画では効果的に描かれている。

ハブの中でジャガイモを育てるが、映画ではなぜ生のジャガイモがハブにあったのか説明がない。原作を読むと、感謝祭の日に料理して食べることになっていたものだった。また、映画では火星の砂とクルーの排泄物をワトニーが鼻に詰め栓しながら混ぜ、そこにジャガイモを植えていた。当然、それだけでは育たないので、原作では植物の成長に必要なバクテリアが含まれた地球の土を火星の砂と混ぜて湿らせ、バクテリアを増やす段階も描かれている。

ローバーに穴を開ける作業は、アレス4ミッションのMAVがある地点まで約3200kmもの長距離ドライブに備え、原作で「ビッグ・スリー」と記される空気調整器、酸素供給器、水再生器を2台目のローバーに乗せるためにしていたものだ。映画では与圧されているのは運転席だけで、何のために穴を開けていたのかよく分からなくなっている。原作ではワトニーが長距離ドライブ中、与圧された寝室として使えるように外付けのテントのようなものを用意したが、映画ではローバーの陰になる火星の大地に直接横になっていた。

原作ではローバーに穴を開ける途中、誤ってパスファインダーをショートさせてしまい、地球との通信ができなくなる。だからこそ、アレス4ミッションの地点までの移動中、ワトニーは現在地を知るために天測していた。また原作では、途中で巨大な砂嵐のエリアに入った際にすぐ気づかず、太陽電池の発電量が減って事態に気づき、砂嵐から抜け出る方向をどうやって知ればいいのか試行錯誤する様子が描かれる。さらに、目的地に近づいたところでローバーが転倒してしまうアクシデントも映画では省かれていた。

映画では、中国がどうして自国の探査機打ち上げを取りやめてまでヘルメスへの物資補給を行ったのかはっきりと描かれていない。原作を読むと、アレス5ミッションで火星に行くクルーに中国人を加えることを見返りとして求めている。そこで映画ではアレス5ミッション打ち上げシーンで、マルティネスの横にアジア系のクルーが笑顔で座っていたのだ。

火星に戻ったヘルメス号が、ワトニーを宇宙空間で救助する際、映画ではベックを差し置いてルイス船長が救助に行き、ワトニーは自分の宇宙服に穴を開けて吹き出る空気で「アイアンマン」のようにルイス船長の元へと飛んでいく。この辺りは映像的な効果を狙ってのことだろうが、原作通りの方がしっくりくると思う。原作で描かれるのはワトニーの救助までだが、映画ではさらに地球に帰還したワトニーの様子やアレス5ミッションの打ち上げシーンなどが描かれる。

以上のように、映画は原作のダイジェスト版とも言える内容になっている。映画をご覧になった方も、原作にも目を通してみてはいかがだろうか。最後まで諦めないことの大切さを、あなたもきっと受け取るに違いない。

 
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