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【科学最前線】たんぱく質が入る巨大カプセル、自己集合で合成 東大

東京大学の藤田誠教授らは、幾何学的な制約によって、自発的に球状構造を組む「自己集合」を研究してきた。今回、分子のわずかな「たわみ」までも考慮して、100成分にも及ぶ小さなパーツから直径8ナノメートルを超える「二十・十二面体」型の巨大中空球状構造の新物質を自己集合によって合成した(ナノは10億分の1)。巨大な分子であるたんぱく質をすっぽり包み込むほど大きな内部空間を持つため、この成果は将来的にはたんぱく質の入れ物として利用するなど、創薬やヘルスケア分野で貢献すると期待される。

シャボン玉が自然と球形をとるように

「幾何学的な制約」とは、3次元空間で多面体がとりうる構造はさまざまな制約を受けることを指す。例えば「正多面体は5種類しか存在しない」(正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の5種類)ことや、多面体の面、頂点、辺の数を関係づける「オイラーの多面体定理」(多面体の頂点の数をv、辺の数をe、面の数をfとした時、v-e+f=2が穴のあいてないすべての多面体で成り立つ)が有名だ。こうした事実を逆手にとり、「自己集合過程において、多面体としての制約によって化学構造を一つの構造に落とし込む」という発想で、一見不可能とも思える多数の成分から巨大な球状構造を合成したのだ。

具体的には、上下左右の4方向に結合部位を持つ金属イオン(M)と、金属イオン同士を繋げる湾曲した有機分子(L)を組み合わせて反応させると、シャボン玉、雨滴、気泡が自然と球形をとろうとするのと同じく、MとLの組み合わせでできる3次元構造も、球に近い正多面体もしくは半正多面体のいずれかの形に収束するという仮説を立て、幾何学的な制約によって生成可能な構造を予測した。驚くことに、生成可能な構造はすべてMnL2nの組成を持ち、nの値は6、12、24、30、60の5種類に絞られることに気づいた。

分子のわずかな「たわみ」が設計のカギ

これまでにM6L12の正八面体、M12L24の立方八面体(立方体の各頂点を辺の真ん中で切り落とした立体)、M24L48の斜方立方八面体(立方体の各頂点と各辺を切り落とした立体)が自発的に組み上がることを明らかにしてきた。さらに巨大な多面体構造として、M30L60組成の二十・十二面体(正十二面体の各頂点を辺の真ん中で切り落とした立体)やM60L120組成の斜方二十・十二面体(正十二面体の各頂点と各辺を切り落とした立体)ができると予測されるが、n=30の組み立ては難航した。n=24と30の構造が近いため、n=30の構造をつくりたくても、どうしても手前のn=24の構造に収まってしまうことがほとんどだった。今回、分子のわずかな「たわみ」までも設計に取り入れ、自己集合を精密に制御したところ、はじめて念願であったM30L60の二十・十二面体の構造を自己集合で合成することができた。

たんぱく質の入れ物、医薬・化学で応用に期待

今回合成に成功した巨大分子構造は、多くの平均的な酵素やたんぱく質をすっぽり包み込むことのできるだけの内部空間を持つ。そこで、酵素やたんぱく質を入れる人工カプセルとしての応用が挙げられる。また、原子レベルで定まった精密な構造は、従来にないさまざまな高機能を付与するのに非常に有利だ。例えば、定まったサイズを持つ対称性の高いカプセルは、今日たんぱく質分子構造解析の大きなボトルネックとなっている結晶化をサポートする入れ物としての役割が期待される。現在多方面で研究が行われている機能性酵素の研究やドラッグデリバリーシステムの土台ともなり、これらの研究を加速させる可能性も期待できる。将来的には、医薬品開発、ヘルスケア分野等の発展を後押しすることで、より良い暮らしへの貢献が期待されるだろう。

なお同研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ACCEL研究開発課題「自己組織化技術に立脚した革新的分子構造解析」および、個人型研究(さきがけ)「超空間制御と革新的機能創成」研究領域における研究課題「自己集合が導き出す新規多面体群:物質合成と数学的考察」の一環として行われた。

たんぱく質が入る巨大カプセル、自己集合で合成 東大
画像提供:科学技術振興機構(JST)

 
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