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おりんが奏でる、たましいを導く音 — 山口久乗『音心具』がつなぐ祈りのかたち【後編】

伝統の技が息づく富山県高岡市で、明治40年の創業以来たゆまず「音」を磨き続けてきた山口久乗。彼らが提案するのが、澄んだ音を奏でるおりんと形見入れを組み合わせた『音心具おんしんぐ』だ。ライフスタイルの変化に伴い供養の形が変わるなか、新しい供養のカタチやそこに込めた想いについて、取締役の山口直子氏に話を聞いた。

「無色透明」な音に、それぞれの祈りを乗せて

—— 実際に久乗おりんの音を聴くと、驚くほど心が落ち着きます。

『音心具』には、西洋の「ドレミ」ではない「十二律じゅうにりつ」という東洋の伝統的な音階も取り入れています。これは、中国の司馬遷が2000年ほど前に書いた歴史書『史記』の中にも、人の干支えとと音の結びつきについて記されています。

2000年もの間、誰かが調律を変えたわけでもなく、「子年ねずみどしはこの音」というように、守られてきました。その音を、日本名に変えて、そのままもう一度皆さんの暮らしにお届けしている。私達は、笑いながら一番喜んでいるのは司馬遷かねって話しているんです。

—— 出会いから新しい音が生み出されるのでしょうか?

ある時たまたまお会いした方から、「生まれることのできなかった子どもを光に戻す音がありません。そういう音を作ってください」と突然言われました。どうしていいか思いめぐらせておりましたが、1年ほど過ぎた頃に、わからないままおりんの音を作り込むと、時を同じくしてデザイナーもゾウさんのフレームを生んでくれました。「ぞうりん」の完成です。

でもね、出来上がった時には「こういう思いで作りました」とは一言も言いません。私たちは、音に自分達の思いを乗っけてはいけないと思っています。その大きさが持っている無色透明の一番良い音をそのまま出すと、手にされた方がご自分の思いで鳴らされた時に初めて、その方の想いが音に乗ってどこかへ届くのだと思います。

日々頑張っていらっしゃる皆さんも、音を鳴らした瞬間に、肩の力がストンと抜けて本来の自分に戻れる。音にはきっと、そういう力があるはずなんです。

宇宙の様な形で彩られた「音心具」

科学が証明する「響き」と東大寺での音楽療法

—— 音の力は科学的にも証明されているとお聞きしました。

はい。富山大学や日本音響研究所で調べていただき、科学的なメカニズムも分かってきました。人間の身体の水分が、音の振動を認識して、雪の結晶のように美しい形に整うのです。太鼓の音のようにお腹にドーンと響く荒い波とは違いますが、おりんの微細な鼓動の波も、同じ原理で間違いなく身体へと入っていきます。だから、耳の不自由な方でも振動として音を感じることができるのです。

東大寺では創建当時から自然治療をされていて、その精神を受け継いでいるのですが、経営されている肢体不自由のお子さんたちの病院では、おりんを音楽療法に使ってくださっています。6年前にそちらの施設を伺った時のことです。ストレッチャーで横になっている、言葉を伝えることができないお子さんの耳元でおりんを響かせました。一つの音を鳴らし終え、次の音へ移ろうとした時、付き添われていたお母様が「待ってください、この子はまだ今の音を聴いています」と仰いました。

おりんの音は、叩いた瞬間の「打音」、その後に広がる「揺らぐ音」、そして静かに清らかに長く響く「余韻」の3つで構成されています。その響きを、お子さんは全身で受け止めていたのです。そして目線の動きで、この子はこの音がいいと選びました、とお母様が通訳してくだいました。

音が持っている浄化の力、魂を癒やす力は本当に偉大なのだと、音と出会うことで少しずつ教えてもらっています。

—— その素晴らしい響きは、いまや海外へも広がっていますね。

海外の方は「おりん=仏具」という先入観が全くありませんから、純粋に一つの「音」としてストレートに受け止めてくださいます。必要としてくださる方は間違いなく増えていますし、広がっていくといいなと思います。

—— 素晴らしいお話、ありがとうございました。これからもおりんの音が多くの人の心に届いていくことを願っています。

高岡駅の発着音や、震災で大変な状況にある珠洲神社の奉納演奏など、すべてが出会った方々との大切なご縁で繋がっています。これからも、ただ純粋にこの音を皆さんの元へお届けしていきたいと思います。

代表取締役会長の山口敏雄氏(左)と奥様で取締役の山口直子氏(右)。音階で音を奏でるおりんを背景に

久乗おりん – 優凜、おりん / 株式会社 山口久乗-創業明治四十年

【取材後記】

亡くなった方への想いをのせて心の奥に響く音。おりんは、古から人々の祈りと、生と死と共にあった。今では特別な時しか聞くことがなく、普段の生活の中では忘れてしまっていたが、聞いたおりんの音は不思議にも、自然と心に染み込んできた。

「心具にそっと遺灰や思い出の品を納め、朝に夕におりんを鳴らす。その音が天に届く架け橋となり、あちら側とこちら側を優しく繋ぐ。」

心に響く音に耳を傾け、人生の運命の音に導かれて生きていきたいと感じさせられた。

(冒頭の写真は、高岡銅器の職人の技で作り出した「音心具」)