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法律家の目で ニュースを読み解く!(2)

法律家の目で ニュースを読み解く! 痴漢冤罪保険の意義について

痴漢冤罪保険の意義について

前回、同シリーズでは、意外と知られていない司法の落とし穴について解説した。今回は、万が一、自分が冤罪事件に巻き込まれてしまった場合、どうしたらいいのかを具体的に取り上げたい。ここでは、昨今話題となっている痴漢冤罪保険を例として紹介する。

協力:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

―「痴漢冤罪保険」というサービスがあります。ここまで具体的に特化した弁護士保険が存在するということは、それだけ冤罪被害があり、つまり需要が多いということなのでしょうか。
痴漢事件は、それがたとえ冤罪だとしても、否認すれば長期間の勾留と、ばく大な精神的・経済的負担を強いられる刑事訴訟が待っています。こういった背景から、現状の合理的な選択として、虚偽の自白を選択する人が一定数いることは想像に難くありません。刑事訴訟の有罪率99.9%の中には、相当数の痴漢冤罪の暗数があると考えざるを得ないのです。
 

―特に痴漢事件の中に冤罪が潜みやすい理由とは何でしょうか?
多くの痴漢事件は、警察が裁判所から令状をとって逮捕する通常逮捕ではなく、被害者による現行犯逮捕であるため、「現に犯罪を行ったものであると推認させる証拠」があれば、裁判所のチェックもなく逮捕が正当化されてしまいます。つまり、被害者が「この人が痴漢です」と言っているその様子に真実味があると判断されれば、法律上逮捕を免れるすべはないということなのです。

現行犯逮捕を免れるため、何としてもその場から立ち去るべきだというアドバイスをする弁護士もいます。しかし、逃亡しようとしているとみなされて、かえって捜査機関に悪印象を与えてしまう場合もあります。さらにそこで争って誰かに怪我をさせてしまえば、暴行や傷害までが罪名に加わってしまうリスクもあります。また、最近では、両手を挙げて「何も触らないからDNA検査をやってくれ!」と叫ぶとよい、とおっしゃった弁護士さんもいました。しかし、それ自体で逮捕まで免れさせる効果があるかと言われれば疑問と言わざるを得ません。
 

―万が一、逮捕されてしまった場合の心得と対処法を教えていただけますか?
痴漢事件で逮捕されると、48時間以内に検察庁に送られ、さらに24時間以内に、さらに10日間勾留されるかどうかが裁判所の判断で決まります。つまり、最初の3日間が勝負なのです。ここで勾留されてしまえば、会社員の方にとっては会社に説明できない休業期間が生まれ、致命的な打撃を受けることになります。したがって、この3日間の間に弁護士の助力を得られるかどうかは非常に重要です。
 

―具体的にはどのような形で弁護士の助力を得ることができますか?
ジャパン少額短期保険株式会社が販売する「弁護士費用保険」が一時期大きく話題になりました。この保険は、「賠償責任保険」とセットとなっており、保険料は月額590円、年額6400円で利用できます。痴漢と間違えられた際、弁護士へのヘルプコールでの相談ができ、事件発生後48時間以内の弁護士への相談料、接見費用などが保険で負担してもらえるものです。しかし、48時間以内の接見費用負担の効果はあくまで限定的なものです。現状で保険に加入していなくても、当番弁護制度を利用する権利がすべての人にはあり、逮捕されてから1度、弁護士による接見を無料で受けることができます。
(参考URL:https://www.nichibenren.or.jp/contact/on-duty_lawyer.html
 

―弁護士保険に入っておくことの意義は何でしょうか?
この保険の最も大きな意義は、事件発生直後、弁護士の助言を得て逮捕を回避できることでしょう。ただし実際には、被害者や警察を前にして弁護士に電話すること自体が物理的・心理的に難しい場合が多いのです。電話をする権利はあるのですが、警察はそうさせないように、時にはそうしてはいけないかのように誘導することも多々あるので、こういった事情を知っておく必要があります。
弁護士と電話でつながりアドバイスをもらうことは、警察に逮捕を控えさせる一定の抑止効果になり得ます。

現状で最もリスクがなく有効な手段は、できるだけ早く弁護士に連絡し、できるならば現場臨場してもらい、助力を受けることです。知り合いに頼りになる弁護士さんがいない場合などは、このような保険の利用も考えてみてもよいかもしれません。ただしどちらの場合も、結局は弁護士の質と熱意にかかってくると言えます。