宇宙モデルにほころび? すばる望遠鏡でダークマター地図

宇宙モデルにほころび? すばる望遠鏡でダークマター地図

国立天文台などの研究チームは、米ハワイにあるすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」(HSC)を用いた大規模探査観測データから、ダークマターの地図を作成した。ダークマターとは、質量は持つが光学的に直接観測できない仮説上の物質のこと。ダークマターの塊の個数と重力レンズ信号の強度の関係を調べたところ、これまで考えられてきた宇宙モデルでは説明できない可能性があると、2月27日に発表した。日本天文学会欧文研究報告の「HSC特集号」に掲載された。

天体間に働く重力により、宇宙の膨張の速さは次第に減速していると考えられていた。しかし、1990年代に、数十億年前から加速に転じていたことが、遠方の超新星の観測から発見された。重力に打ち勝って宇宙を加速膨張させるには、互いを引き離す「斥力せきりょく」が存在することになる。この斥力に対応する「宇宙定数」をアインシュタインの方程式に導入することで、観測を再現する宇宙膨張の方程式が得られる。この宇宙定数を加味した最も単純な宇宙モデル(LCDM)からは、宇宙が未来永劫膨張し続けるなどの重要な結論が得られている。ただし、宇宙定数が物理的に何を意味するのかはまだ理解できていない。
 

高性能カメラを使った観測で、宇宙膨張の歴史に迫る

加速膨張宇宙の謎を解き明かすことを主目的として、国立天文台、東京大学を始めとする研究チームがHSCを開発し、2014年から大規模な深宇宙撮像探査観測を進めている。「宇宙の大規模構造」と呼ばれる網の目状の物質分布が進化する速度は、宇宙膨張の歴史と強い関係にある。研究チームはこの大規模構造進化の観測から、逆に宇宙膨張史に迫れることに注目し、2018年3月時点で計画のおよそ60%まで観測が完了している。

今回研究チームは、2016年4月までにHSCで観測されたデータをもとに、ダークマターの2次元分布を推定した。観測された全天域は5色のフィルターで撮影され、これらの多色画像を比較することで各銀河までの距離を推定した。銀河の距離ごとにも解析を行い、まるで断層写真を撮影するようにダークマターの3次元分布を得ることに成功した。

こうして作成したダークマターの分布を示す地図から、ダークマターの塊の個数やそれぞれの質量を計測したところ、今回のHSCによる観測結果は理論予想値を一定の有意度で下回っていた。宇宙のごく初期に観測された温度揺らぎと宇宙モデルを決めればダークマターの塊の個数は予測できるが、これがHSCで観測されたものと違うということは、LCDMに何らかの「ほころび」があるということになる。

ただし、今回の結果は観測計画全体の11%のデータに基づくものなので、サンプル数が少なく、誤差がやや大きいことに注意しなければならない。これまでLCDMが高い精度で棄却されたことはないので、今後の観測の進捗が待たれる。

画像提供:東京大学/国立天文台