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法律家の目でニュースを読み解く!アメフットの悪質タックルは傷害罪に相当するのか?

法律家の目でニュースを読み解く! アメフットの悪質タックルは傷害罪に相当するのか?

大学生のアメリカンフットボールの試合で日本大学の選手が、無防備な関西学院大学の選手の背後から危険なタックルを繰り出し、相手を負傷させたようすがインターネット上の動画で広がり話題となっています。これが法的に犯罪行為に相当するのかどうかを今回は見ていきます。

協力:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

スポーツでの負傷が傷害罪に?

タックルをした選手の行為が刑法犯(傷害罪)に該当するのか、という観点からのみ検討するならばポイントは2つです。

1つは、故意の有無。これは、否定しようがありません。相手選手を狙ってタックルをしていることは、動画という明確な証拠があるため、議論の余地はありません。

2つ目は、選手の負傷が、あらかじめ同意されたリスクの範囲内か、という問題です。スポーツに怪我はつきものです。ルールの範囲内でゲームをし、その結果負傷するリスクがあることは、選手たちも了承したうえでゲームに参加します。これを「危険(リスク)の引き受け」といいます。想定されたリスクの範囲内であれば、そのようなリスクがあることは怪我をした側も了承していたものとして、刑法犯の罪には問われません。今回もこの選手の行為が、想定されたリスクの範囲内かどうかが一番のポイントになります。
 

競技のルールを逸脱した行為

アメリカンフットボールの有名選手や、経験者のコメントを報道で見る限り、この行為は明らかにアメリカンフットボールという競技のルールにおいて許容される慣行を逸脱したもので、想定されたリスクの範囲内ということはできないようです。

そうしますと、この危険なタックルを行った選手に傷害罪を適用することができる、ということに議論の余地はありません。実際に捜査機関が事件に着手するかは、被害者である選手とその所属するチーム、大学側の意向にかかっていると思われます。
 

問われる指導者の責任とその余波

さらに問題は、この危険なタックルを行った選手の指導者には刑法犯が成立するか、ということに移ります。

ポイントは、この選手の指導者が、このような危険なタックルをするよう指示をしたか否か、という点です。もし指導者がこのような指示をしていた場合には、指導者こそが首謀者であるということになり、実行犯である選手よりも重い罰を共犯として負うことになります。

報道では、「指導者の指示があった」という関係者のコメントもありますが、指導者自身はこの点を否定しており、加熱する報道の中でも、それぞれの主張は平行線をたどっています。今後も事実関係としては、この点が続けて話題となるでしょう。

第一次的に行われる所属チーム及び競技連盟の調査において事実関係の解明が不十分となると、同種事件の再発が懸念され、他の大学チームとしては、事件を起こしたチームとのゲームを避けざるを得ないでしょうし、アメリカンフットボールという競技自体を危険視する空気も生まれかねません。また、被害を受けた選手側としても、告訴状や被害届の提出という形で捜査機関による事実関係の解明を迫るしかなくなってしまいます。指導者たちによる謝罪が予定されているようですが、普通に考えると、事実関係の解明が不十分なままでは受け入れられない可能性が高いです。指導者は辞任を表明しましたが、このタイミングでは、少なくとも被害者への誠意は伝わりにくいように思えます。

スポーツマンシップとは、ルールにのっとった公正なプレーを行ない、競技する相手に対する敬意を持つことによって成り立ちます。アメリカンフットボールという競技を愛する一人として、今回の事件は非常に悲しい出来事だと感じています。

(写真はイメージ)
 
参考記事
法律家の目でニュースを読み解く! 悪質タックル事件、日大アメフット選手の会見(2018/05/24)