「生きづらさは障がい者だけのものではない」 垣根を越える試み・シェイクハートプロジェクト

「生きづらさは障がい者だけのものではない」 垣根を越える試み・シェイクハートプロジェクト

「自分の存在意義を感じながら人の夢を叶えることは、自分1人の夢を叶えることよりも幸せなこと」そんな想いを抱き、活動している人がいる。白井長興ながおきさん、40歳。15歳の時にプールの事故で脊髄を損傷し、以来車椅子で生活している。

2016年1月、NPO法人シェイクハートプロジェクトを設立。シェイクハートとは、「シェイクハンズ(握手)」にかけて、「心と心で握手する」という意味が込められている。「障害を特性に、特性をワクワクに」という理念で、障害の有無に限らずすべての人の特性が輝く社会を目指して活動している。障がい者だけでなく、健常者と共に夢を叶えあうという活動が特徴だ。障がい者と健常者の別を問わず、結成した仲間同士のつながりを「バディ」と呼び、5000組のバディを作ることを目標にしている。

「生きづらさは障がい者だけのものではない」 垣根を越える試み・シェイクハートプロジェクト
NPO法人シェイクハートプロジェクト 代表理事 白井長興さん

また白井さんは、多くの夢を叶えるためユニバーサルパーティ(ユニパ)を開催しており、障がい者アーティストを呼んだコンサートや、地域のイベント(ぽんぽこ祭)などを行ってきた。それらを通して参加者が学べることは多いという。例えば、トイレに行くという日常的な所作においても、健常者の何倍も労する障がい者は多い。これを座学のように「学ぶ」のではなく、ともに過ごす中で「気づく」こと、自分の中に落とし込むことが大事だ。「自分事化」とよく言われるが、直接そばで体験して気づくことで初めて自分事化することを、筆者も白井さんとお会いして実感した。

健常者と障がい者が互いに夢を叶えあうという思いの背景には、「障がい者だけの状況をよくしようとするだけでは変わらない」という考えがある。多くの人が課題に気づき、複合的に社会を変えていく流れを作ろうとしている。「思いやりと勇気のバッチを世の中に」という活動もその一つだ。東京都オリンピック・パラリンピック教育の一環で、シェイクハートプロジェクトはオファーのあった小学校に出向いている。電車内の高齢者や妊婦さん、坂で見かけた車椅子の人、道に迷っている外国人などに声をかけて、おもてなしをしようという活動だ。これに挑戦する人は、「思いやりと勇気のバッチ」(小学生の場合はシール)がもらえる。今まで10校以上の小学校で授業をして、配ったシールは1000枚以上になるという。

「生きづらさは障がい者だけのものではない」 垣根を越える試み・シェイクハートプロジェクト
思いやりと勇気のバッチ

白井さんとお話しして、「生きづらさは障がい者だけのものではない」という言葉が印象的だった。健常者であっても精神的な生きづらさを抱えている人は多いし、何かを「できない」と諦めることはそれ自体が障害のようなものだ。障がい者と健常者の垣根が低くなり、ともに理解しあい、夢を成していく輪が広がっていく……。2020年のパラリンピックがそんな契機になればよいと感じた。