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三権分立の危機 東京高検検事長人事が意味するもの

三権分立の危機 東京高検検事長人事が意味するもの【後編】

政府が定年間近の黒川弘務東京高検検事長の勤務期間を、内閣の閣議決定により半年間延長した件について、前編ではその違法性について触れました。後編ではこの出来事が意味するところについて、元検察官の三上誠さんに解説いただきます。

 

解説:三上誠
元検察官。弁護士事務所勤務を経て、現在はグローバル企業の法務部長としてビジネスの最前線に立つ、異色の経歴の持ち主。

 

編集部:なぜ安倍政権は、このような無理筋な法解釈の変更を突き進めたいのでしょうか?

三上:考えられる理由の1つは安倍政権にとっての必要性です。検察庁が政府に反旗を翻すことが大きな懸念であるところ、安倍政権に非常に近いとされている黒川氏を検事総長に据えたい強い思惑があると見られます。これは再三指摘されているところであり、これをよしとしない検察庁は、黒川弘務氏ではなく政治色の薄い林真琴名古屋高検検事長を次期検事総長に推したいと考えていました。しかし黒川氏は、来年まで任期の続く稲田検事総長の退任前の2月7日に63歳となり定年を迎えるため、稲田検事総長が任期中の退任を選択しなかった以上、本来であれば黒川氏の検事総長就任は実現しないはずでした。実際、次期検事総長と見られていた林氏は、黒川氏の定年後の東京地検検事長に横滑りで就任する予定であったそうです。安倍政権としては、黒川氏を検事総長にするためには、たとえ違法であっても法令解釈を変更する必要があったということです。

編集部:このような違法な法解釈の変更を突き進めても、安倍政権はダメージを受けないのでしょうか?

三上:憲法の三権分立という大原則は、権力の暴走を抑止するために存在します。しかし、この大原則にもとるこのような行為は、本来は法律違反などよりももっと重大な問題であるにもかかわらず、国会以外の公の場で断罪されにくいという問題点があります。安倍政権は国会で安定多数を確保しているため、野党から追及を受けても最終的にはダメージを受けることはないと考えているでしょう。このような問題に対する国民の関心も決して高いとは言えず、そのため国民からの支持にも影響がないと踏んでいるのではないでしょうか。

編集部:三権分立のあるべき司法の立場が脅かされていると言えるのでしょうか。

三上:はい。伊藤詩織さんの事件で、警察の捜査が政権の介入でゆがめられたことは既にお伝えしたとおりですが、今回の件は検察庁という最も高く独立性が求められるべき官庁に、政権があからさまに介入しようとしていることにほかなりません。

編集部:当事者である検察庁関係者は、今回のことをどのように感じているのでしょうか。

三上:検察庁は、まさに政治家および権力者に対しても切り込んでいかなければならない官庁です。「巨悪を眠らせない」と決然とした信条を持って勤務している検察官も多く、そういった方たちは、今回の政府のやり方に対して決して穏やかな気持ちではないと思います。

このような安倍政権の横行を見るに、報道の役割の大きさも痛感します。国民に正確で十分な情報が提供され、私たち一人一人が主権者として適切な判断をすることができるように切に望みます。

(写真はイメージ)