• HOME
  • Sustainable
  • 八方よしの会社で成り立つ「持続可能な資本主義」

八方よしの会社で成り立つ「持続可能な資本主義」

分断が引き起こした、資本主義の限界

私達の生活のプラットフォームになっている「資本主義」というシステムは限界を迎えている。筆者の新井和宏氏は、鎌倉投信の創業者で2013年には格付投資情報センター(R&I)でも最優秀ファンド賞(投資信託国内株式部門)を獲得した投資家だ。

筆者はもともと、「投資は科学である」という投資哲学にほれ込み、投資会社で数学的モデルで分析する企業年金の運用をしていた。当時の筆者は、資産を預けた人とも、投資する企業の人とも顔を合わせることはなかった。リスクの高い債権は切り刻まれ、つなぎ合わせた証券は、誰に投資するためのものかが見えなくなっていた。

業績はトップレベルだったが、常に利益を上げることを求められるプレッシャーの中、病気で倒れ、それがきっかけで考え方を変えるようになる。ちょうどその頃に発生したのが2008年のリーマンショックで、その根本的な原因は「分断」だったと筆者はいう。

新しい投資方針「八方よし」

日本の企業には元々、三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)の理念から生まれた日本的経営が根付いていた。しかし、グローバリゼーションの中でアメリカ流の経営理念を取り入れ、利益を求める競争社会になっていった。企業も株主へのリターン最大化が命題となり、四半期決算による短期の成果を求めるあまり、腰を据えた長期投資をできず、決算の改ざんなどの不正という歪みも発生した。

一方、金融の世界では1988年に定められた国際的基準BIS規制により、銀行に一定以上のキャッシュを蓄えておかなければならなくなり、客観的な融資の評価が必要となったため、それまでの目利きによる融資ができなくなった。

投資判断には企業の格付や株価の指標が使われるが、筆者は、企業には個性があり、指標を作って画一化しようとすれば個性を失い、社会から多様性が失われてしまうとしている。現金や不動産といった見える資産だけではなく、社風、社員のモチベーション、信頼といった見えざる資産を重視するべきだというのだ。

そして筆者は、顔が見える範囲で投資先を選び、社会全体として良くなるために投資する方針に切り替えた。つまり「リターン=資産の形成×社会の形成×心の形成=幸せ」という考え方だ。筆者は「三方よし」を今の時代に合わせて、社員、取引先、株主、顧客、地域、社会(地球・環境など)、国、経営者の、「八方よし」として定義し、投資の理念としている。

年輪のように成長する、自然な資本主義

金融は社会の血液であり、良い循環で信用を生み出しまわしていくことが必要だ。筆者は、資本主義の行先の決定権はいつも消費者の側にあるとしている。成熟した消費者一人一人が何に価値を見出し、消費型の暮らしから循環型の暮らしへ移行させられるか。消費者が変われば産業が興り、投資が生まれ、社会が変わっていく。また、一人一人は消費者でありつつも、社員でもあり、投資家でもあり、地域住民でもある経済の重要なステークホルダーなのだ。

トヨタ自動車の豊田章男社長は、伊那食品という地域貢献を本業と考えて社員が生き生きと働く企業の姿に影響を受け、2014年の決算説明会で次のように話している。「『持続的成長』とは一年一年着実に『年輪』を刻んでいくことだ。人材育成と同じスピードで年輪を重ね、身の丈を超えた無理な拡大は絶対にしないという覚悟が必要だと思っている」。

お金から社会、心の形成を通じて着実に年輪のように成長する、自然な資本主義のために、私たち一人一人が、一ステークホルダーとして、良い循環を生み出していきたいものである。

著者:新井和宏
発行日:2019年1月25
発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン

(冒頭の写真はイメージ)