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「地域をまわって考えたこと」移住者の生の声に触れる

「地域おこし」「地方創生」「地域活性」。近年メディアで飛び交うこれらの言葉について回るのは、キラキラした移住者や起業家のサクセスストーリー、さらには衰退した地域に新しい風を吹かそうと若者が奮闘する物語が多い。しかし、現実はそう簡単ではない。すべてがキラキラしているわけでもないし、すべての移住者が成功するわけでもない。また地域住民が主体となって盛り上がった活動も、その後も継続できる保証はない。

そういう意味では、この本は地に足がついている。本書の著者は、2011年の東日本大震災後に三陸地方の復興政策に関して論文を書いた経験があり、その際に現地を訪れて調査することの重要性を感じたという。そのため、後に「信濃毎日新聞」や「TURNS」などで全国の地域活動に関する連載を持った際には、自分で各地を歩いて取材している。さらに、本書執筆のために改めて地域を訪れており、著者が目で見て感じたことだけが書かれている。

「地域と移住者の特性を知りたい」「日本の地域一般が置かれている状況を構造的に理解したい」という著者の切実な思いが、冷静な視点で地域を見ることになり、「まっとうな努力をする移住者」「堅実な移住者たち」といった、他ではめったに聞かない言葉で移住者たちが紹介されている。東京都檜原村で「東京チェンソーズ」という林業の会社を立ち上げた青木氏は、「やっていることは地味でも理念を大切にする人」「神経質すぎず、実直に頑張る人」が移住に向いていると話す。青木氏自身も、移住後に森林組合で働くなどして15年かけて実績を積み上げていった経歴がある。また、消滅可能性都市ランキング1位になった群馬県南牧村に移住した米田氏も、千葉から移住するまでに10年かけて村内に人脈を作ったという。

生きるということは「キラキラしていない実直な現実」と向き合うことだ。「移住」も住む場所を変えただけで、生きることを継続する点では移住前と変わらない。しかし、人は新しい土地に行けば新しい何かが待っていると期待し、理想とのギャップがあるとその土地を離れることにもなる。「地域のニーズと自分の希望の折り合いがつけられること」の大切さは、実際に移住に成功した人には身に染みてわかる言葉だろう。

最後には、そもそもすべての地域が「活性化」を望んでいるのか、少子高齢化の本当の問題は何なのか、と著者は問いかける。地域とは何なのかを根本から考え直す1冊だ。

 

『地域をまわって考えたこと』
著者:小熊英二
発行日:2019年6月5日
発行:東京書籍


(冒頭の写真はイメージ)