【連載企画】地方・地域再生のクリエイティブな試み

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~(2)そこで暮らす人の想いが街をつくる アートできっかけづくり~

「それぞれの街に生きる人たちが『この街で、こんなことをやりたい。あんなことをやりたい』と自ら提案し、思い浮かべられること、そしてその想いや行動が、実際、活き活きとした街の風景を作っていくと思うんです」。港まちづくり協議会・事務局次長の古橋敬一さんは言う。

連載第1回目でご紹介したアート・プログラム「Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]」は、名古屋市港区の西築地学区を中心とした港地区周辺の活性化を目指す、港まちづくり協議会が運営母体となっている。同協議会は、ボートピア名古屋という施設の開設がきっかけではじまり、競艇を施行する自治体から名古屋市に交付される「環境整備協力費」(ボートピア名古屋の売上金1%)を原資とした港まち活性化事業を展開しているのだ。(図1参照) 比較的豊かな公金を使っての街づくり事業となっている。しかし、街づくりとアートの試みはいたるところで見られる昨今において、今回の試みの面白さとは何か。冒頭の発言にも見られるように、「そもそもアート・プログラムは誰のためのものなのか」という視点を踏まえ、その面白さに迫ってみたい。

地方・地域再生のクリエイティブな試み
図1

たとえば、観光スポットとしてアートを楽しむ場を作り、そこに多くの人が集まっても、人々が街自体を素通りして終わってしまうことが多いのが現状だ。古橋さんは「街の活性化には、賑わいや商業的な側面も重要ですが、より本質的には街の人たちが、もっと活き活きと生活して仕事をし、それぞれの人生を謳歌できるような場を作り出すことが大切だと思います」と話す。そこで、もっと一人ひとりが自分の暮らしの舞台である街や社会に関心を持ち、その結果見つけた小さな違和感や問題と向き合うことが必要となってくる。だからといって、街を周っては「あれが足りない」「これが足りない」と街の困り事の解決を行政に要求するだけではなく、ほしい未来を自分たちで作り出すために、いかに自分たち自らで問題を見つける視点をもてるのか、そこが重要だろう。そこに、街でアート・プログラムを展開する意味がある。

「アートには、全く新しい世界に気づかせてくれたり、社会の隠れた問題を提起する力があると思います」と古橋さん。街に触れたアーティストの感性にひっかかった「何か」が投影された作品を目にするとき、街の人たちにも「何かしらの反応」が起こる。解釈はさまざまあっていい。そこで、自ら考えること、それ自体が生まれることが、街づくりのきっかけとなるというのだ。また、アート・プログラムの関係者を含めて、アーティストやクリエイターたちが行き交うことで街の雰囲気にも変化が生まれているという。感性の鋭い彼らは、面白いもの、おいしいものを見極める嗅覚が鋭く、それを伝播させるコメントにも長けている。それが地元の人たちにとっては、日常に埋もれていた店舗の魅力を、再認識する機会にもなっているのだ。

今回の取材を通して、街づくりそのものが何か、を定義するわけではない。当然、街ごとの課題は異なるからだ。ただ、「このままではいけない」という思いが「こうしていきたい」というプラスの思いに転換し、人が活き、街が活き、日本社会の変化につながっていったら……と思ってやまない。

次回は街づくりという職業について、その仕事内容や働き方にスポットを当ててみたい。

地方・地域再生のクリエイティブな試み
港まちづくり協議会スタッフメンバー。前方中央の男性が古橋敬一さん。