環境に配慮した分解可能なセンサー 阪大が開発進める

環境に配慮した分解可能なセンサー 阪大が開発進める

大阪大学は17日、土に還る材料のみで組み立てる土壌含水率センサーを開発したと発表した。この技術により環境にやさしい持続可能なセンシングシステムやスマート農業の発展に期待できる。この研究成果は米国科学誌に公開された。

センサーは温度や湿度をはじめとした環境情報をデジタル信号として取得するための窓口のようなものであり、設置数が増えるほど得られる情報の質と量が増大する。近年ではIoT(モノのインターネット)という言葉もよく耳にするが、センサーをあらゆる場所に設置することで、豊かな生活の実現を目指そうとする動きが活発になっている。

しかしその一方、センサーの設置数が増えるほど、環境への負荷が問題となる。特に使用済みセンサーの回収・処分は難しく、屋外環境に大量にセンサーを設置した場合、その全てを回収することは簡単ではない。既存のセンサーは植物に害を起こしやすい銅や非分解性のプラスチックを多用しており、環境に残留した場合にさまざまな悪影響を引き起こす。このようなことから近年は環境にやさしい電子デバイスの開発が行われている。

屋外で使用するセンサーに必須の機能は、①環境情報収集(センシング)、②センシングしたデータの発信、③設置位置情報の発信の3つである。研究グループは、この必須3機能かつ分解性を兼ね備えたセンサーを開発することに成功した。

センサー本体は、木材由来の微細繊維(ナノファイバー)で作られた紙基板、錫配線、カーボンヒーターを天然ワックスでコーティングして構成した。紙基板および天然ワックスは微生物によって分解され、残留する錫は銅や銀とは異なり植物に害を与えない材料として知られている。

センサーに備えた受信コイルによって、無線給電で電力が供給されて搭載されたヒーターが過熱される。センサーを設置した土壌の含水率が少ないほどヒーターが熱くなるように設計されていて、サーマルカメラで撮影すると、熱源位置からセンサーの設置位置が、熱源温度から土壌含水率が推定できる。センサーを大量に設置した場合でもカメラで撮影するだけで土壌含水率の情報をマッピングすることができる。

このセンサーは最終的には微生物で大部分が分解され、残留する成分も環境に悪影響を与えにくい。そのため回収の必要はなく、高密度で設置することも可能である。センサーに肥料成分も配合しておけば、「センシングもできる肥料」のような応用も期待できる。

センサーを含む電子デバイスはこれまで、いかに分解せず安定的に動作するかという点が重視され開発が進められてきた。そのため、今回のような「土に還るセンサー」は、これまでと異なる新しいコンセプトのセンサーといえる。研究グループは今後も土に還るセンサーの実用性向上に取り組む。環境にやさしい新たなセンサーの実現に期待が膨らむ。

画像提供:大阪大学