リズムに乗って軽運動を楽しむことで脳機能が向上 筑波大学

リズムに乗って軽運動を楽しむことで脳機能が向上 筑波大学

グルーヴ感を生み出すリズムに対して親和性が高い人は、脳の前頭前野の実行機能注1)と前頭前野背外側部の活性化が、通常の軽運動時よりも促進されることが筑波大学と北海道医療大学の研究により明らかになった。楽しくて効率的に脳機能向上効果を得られる「豊かな運動」の提案につながる成果とされている。

ノリの良い音楽を聴くと、楽しさや興奮が増し、リズムに合わせて思わず身体を揺らしてしまうが、リズムに合わせて身体を動かしたくなるこの感覚のことをグルーヴ感という。拍の顕著性、音の数の多さ、低音成分、シンコペーション 注2)、テンポなどが影響するとされている。

研究チームは昨年、グルーヴ感を生み出すリズム(グルーヴリズム)に対して親和性が高い人は、グルーヴリズム を聴くだけで前頭前野の実行機能が高まることを明らかにした。そこで、グルーヴリズムを運動に合わせれば、運動の楽しさや脳への有益性をもっと引き出せるのではないかと考え、その効果を検討した。

研究方法は、18~26 歳の健康な男女 48 人に、グルーヴリズムに合わせた超低強度の有酸素運動を3分間実施してもらうというもの。
事前に体力テストを行い、参加者それぞれの有酸素能力に応じて超低強度を設定し、リズムに合わせて 3 分間の自転車漕ぎ運動をしてもらう。低~中程度のシンコペーション度数のドラム音楽をグルーヴリズムとして使用し、グルーヴリズムに合わせて運動を行った場合とメトロノームに合わせて運動を行った場合とで、実行機能とそれに関連する前頭前野背外側部の神経活動が向上するかどうかを、グルーヴリズムに合わせた運動に対する心理的反応の個人差に着目して検証した。

検証の結果、「身体がリズムに共鳴しているように感じた」と「興奮した」が両方とも高かったグループの参加者は、グルーヴリズムに合わせた運動により、実行機能と前頭前野背外側部神経活動が高まった(図1)。反対に、「身体がリズムに共鳴しているように感じた」と「興奮した」が両方とも低かったグループの参加者は、グルーヴリズムに合わせた運動により、実行機能が低下した。前者のグループはリズムと身体動作の同調が成功し、興奮の大きな高まりとともに報酬系が活性化されたことで、前頭前野機能が高まった可能性があり、反対に後者のグループは、リズムと身体動作の同調がうまくいかず、リズムをとることに余計な注意を強いられ、認知的に疲労してしまった結果、実行機能が低下してしまったと考えられる。

図1 グループごとにみた効果

図1 グループごとにみた効果

この結果から、グルーヴリズムに対して親和性が高い人では、超低強度運動による前頭前野機能への効果をグルーヴリズムが高めることが明らかになった。研究チームでは今後、リズムと身体を同調する能力などの個人差を生む潜在的な要因の影響や、リズムと同調しやすい運動形態の検討を進めていく。
日本における運動習慣者の割合は3割弱とされており、誰もが自然に取り組める運動プログラムの開発が求められているが、本研究の成果に基づき、グルーヴリズムに合わせた運動の効果を検証することで、楽しくて意欲的かつ効率的に脳機能向上効果を得られる「豊かな運動」の提案につながることが期待される。

 

注1)実行機能
目標を達成するために思考や行動を制御する高次認知機能。充実した社会生活を送る上で欠かせない機能で、抑制、ワーキングメモリ、シフティングという下位機能から構成される。

注2)シンコペーション
一定間隔のリズム(拍)に対し、音が鳴るべきところで鳴らさなかったり、弱い音がくると予期されるところで強い音を鳴らしたりする、いわゆる”ずらし”の技法。シンコペーション度数として数値化することができ、中程度の時に最もグルーヴ感を高めやすいとされる。リズムの複雑度も表す。

画像提供:筑波大学(冒頭の写真はイメージ)