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[書評]『Full Power』行動を変えたいなら環境を変えよ

朝起きて、スマホを開く。気づけば30分、1時間と時間が消えていく。この習慣をやめたいと思いながらも、やめられない状態が続いていないだろうか。

『Full Power』は、このような「変えたいのに変えられない行動」の正体を、意志ではなく環境の問題として捉える一冊だ。著者のベンジャミン・ハーディは、人は決意だけでは変わらないと断言する。行動を変えたいなら環境を変えよ、という立場だ。

スマホ中毒は、著者の主張を最もわかりやすく示す例だろう。「(スマホを)見ない」と決めても、その意志は簡単に崩れる。意志力は有限であり、ストレスがかかるほど消耗するからだ。ストレス下では、脳は快楽物質ドーパミンを求め、SNSや動画に流れる構造がある。さらに問題なのは時間帯だ。心理学者のロン・フリードマンは、起床後3時間が最も脳が活発になる時間帯だとしている。この時間にスマホを使う行為は、1日のうち最も価値の高い時間を自ら手放すことに等しい。

本書が提示するスマホ中毒への解決策は単純だ。「見ない」と決めるのではなく、「見られない環境を作る」、これだという。著者自身もスマホ中毒を経験したが、SNSアプリをすべて削除したという。この行為は一見、極端に見えるが意志に依存しない以上、合理的な選択だろう。

「できない環境を自ら作る」という、この考え方はスマホだけに限らない。勉強、運動、生活習慣など、従来とは別のものに変えたい行動すべてに応用できる。著者はやる気の問題に見えるものの多くは、環境デザイン※1の問題だと整理できるという。

もし今、朝の貴重な時間をスマホに奪われる状態が続いているなら、まずは物理的に距離を取ることが有効だ。寝る場所から遠ざける、別の部屋に置く。それだけでも翌朝の行動が少し変わるだろう。

自分の行動を変えられない理由は意志の弱さではない。変えられない環境に自分の身を置き続けることが原因だ。本書は、その前提に気づかせてくれる。

※1 環境デザイン:本書では、成功せざるをえない状況を作り出すことを指す。

『Full Power〜科学が証明した自分を変える最強戦略〜』
原題:Willpower Doesn’t Work:Discover the Hidden Keys to Success
著者:ベンジャミン・ハーディ
訳者:松丸さとみ
発行日:2020年1月10日(原著:2018年3月6日)
発行:サンマーク出版