ヘリカル型でプラズマ中のイオン温度1億2000万度を達成 核融合科学研究所

ヘリカル型の核融合炉実現へ 1億2000万度の温度条件を達成

自然科学研究機構の核融合科学研究所(岐阜県土岐市)は、世界最大級の核融合プラズマ実験装置である大型ヘリカル装置(LHD)を用いた重水素ガスによる実験で、プラズマ中のイオン温度1億2000万度を初めて達成したと9日に発表した。この温度は核融合を実現するために最も重要なプラズマ条件の1つ。今回の成果により、定常運転性能に優れたヘリカル型の核融合炉実現への展望が開けてきた。

太陽と同じ恒久的なエネルギー源

太陽や星のエネルギーの源でもある核融合は、二酸化炭素や大気汚染物質を発生せず、海水中に燃料となる物質が含まれていることから、実現すれば恒久的なエネルギー源となり得る。そこで将来の核融合発電に向けて、「トカマク型」や「ヘリカル型」などいくつかの方式で研究が進められている。コイルの構造が単純なトカマク型装置では、既にイオン温度1億2000万度の条件を達成しており、フランスで国際協力により建設が進められている国際熱核融合実験炉(ITER)にも採用されている。しかし、トカマク型装置では電流をパルス運転(短時間運転)で流すため、将来の核融合発電に必須の定常運転に課題があった。それに対して、LHDのような、ドーナツ型をしたプラズマ閉じ込め容器の周りをらせん状に巻いたコイルに定常的な電流を流す「ヘリカル型装置」は、原理的に定常運転性能に優れている。しかし、これまでイオン温度1億2000万度に代表されるプラズマ条件が達成されておらず、プラズマの高性能化が課題だった。

イオン温度1億2000万度をクリアするために

高温プラズマを実現するには、加熱パワーを効率よくプラズマに注入するとともに、その損失を最小限に抑え、プラズマ中に保持することが重要となる。LHDでは効率的に加熱するため、プラズマ加熱装置の改造、プラズマ生成ガスの供給・排気を行う粒子制御装置の高性能化を図った。また、蓄えたエネルギーを逃がさないため、エネルギー損失の原因となる、プラズマ中に発生する乱れに対して強いプラズマ形状を選択し、真空容器壁を清浄に保つ手法を確立した。その上で計測器の増設、安全設備を整備し、水素の同位体で一般的な水素(軽水素)の2倍の重さを持つ「重水素」を用いた実験を今年3月7日から7月7日まで実施した。

その結果、実験開始からわずか1週間で1億度を超えるイオン温度を達成。さらにその約1カ月半後の4月26日には、イオン温度1億2000万度を初めて観測した。このデータ検証を進めるとともに、7月5日に再現実験を行ない、LHDがヘリカル型装置における最高イオン温度1億2000万度を達成したことを確認した。

今後、ITERでの実験結果を取り込むことにより、ヘリカル型がITER後に計画されている実際に核融合発電を行う発電炉の最有力候補になることが期待される。同研究所では、国内外の共同研究者とともに、重水素実験で得られる超高温プラズマの性質や高エネルギー粒子の挙動などを学術的に明らかにし、ヘリカル型核融合炉の実現に向けた研究を進めていくという。

画像提供:核融合科学研究所

 
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