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依存症専門医に聞く、変化の時代を生きる大切さ(3)オンライン会合の長短

コロナ禍を受けて、Zoomなどを使ったオンライン・ミーティングが増え、オンライン飲み会なる新しい習慣も生まれています。最終回の今回は、こういった形のコミュニケーションで気をつけるべき点について、アルコール依存症専門医の垣渕洋一先生に伺いました。(構成:見市知)

垣渕洋一
成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長
専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健
資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医

 

編集部)コロナ禍で、じかに人と会う機会が減った代わりに、オンラインでの交流が盛んになっています。

垣渕)近年、インターネット回線の高速化とオンライン・ミーティング用アプリの進化によって、画質や音質が飛躍的に向上したことで、オンラインでもオフラインに迫るほどのコミュニケーションが可能になりました。

ちなみに、オフラインでじかに人と会って会話をする場合でも、言葉自体から得ている情報は実は20%ぐらいに過ぎません。「目は口ほどに物を言う」ということわざのとおり、人の表情やジェスチャーなどの視覚情報もとても重要なのです。
 

編集部)オンラインとオフラインの違いにはどんなものがありますか。

垣渕)まず複数で話すオンライン・ミーティングの際に注意したいのは、他の人が話している時はミュート(消音)にしておくこと。こちらが話していなくても雑音が伝わってしまったり、話者の声の音質に影響を与えてしまうことがあるので、こまめに切り替えることが大切です。

仕事上、オンラインでミーティングをする場合の一番の短所は、私見では「雑談が難しい」ことです。オフラインの会議では、会議の前後にも人と会いやすく、そこでの会話で有用なヒントを得たり、初めて会う人に個別にあいさつができたりします。オンラインでも公式の時間外に、ログインしている人に個人的に声をかけて、別のルームで話すこともできますが、こういったことがスムーズに文化として定着するのはこれからだと思われます。
 

編集部)オンラインでのコミュニケーションが難しいと感じる時があります。それはなぜでしょうか。

垣渕)オンラインの短所をもう1つ挙げるとすれば、相手に与える印象が平板になりがちなことです。じかに会っているのに比べてオンラインだと、話す人の気迫や熱量を感じにくいところがあり、そのため反応が乏しくなるのです。

たとえば講演を行う場合、オフラインでは講師が聴衆からの反応にインスパイアされやすく、それによって話し方や言葉を変えたりもできますが、オンラインではそれが難しいです。このため、話す人も聞く人も表現や反応が平板になりがちです。

だからといってたとえば大声で話したからといって、それで聞く人に不快感を与えてしまうのであれば意味がありません。こういった点を補うために筆者は、オンラインでは身振り手振りを多用するようにしています。たとえば「今日は伝えたいことが3つあります」と話す時、画面に映る位置に手をもってきて指を3本出しながら話す、といったような工夫を心がけています。

ただし、こういったオンラインにおける留意点は別の角度から見ると、会議中に話すべきことを話し切るプレゼン能力を伸ばす機会になると言えます。会議に参加する全員がこういった認識で臨めば、会議全体が効率化され、パフォーマンスが上がることは必至です。
 

編集部)直接会ったり、外食をしたりすることを控える傾向から「オンライン飲み会」という新しい文化が生まれています。この際に気を付けるべき点は何でしょうか?

垣渕)依存症専門医として、オンライン飲み会に対して考えられるデメリットは以下のとおりです。

・自宅で飲むため気楽な雰囲気でコスパがよいことから、つい飲酒量が増えてしまう危険性があること。
・終電やラストオーダーがないことから、つい飲む時間が長くなってしまい、夜更かしになって生活リズムが乱れること。
・単身者の場合、飲みすぎて吐いたり、体調不良になったりした場合、介抱してくれる人がいないこと。

そういった点を考慮に入れた上でできれば、お酒よりも会話を楽しめる相手とオンライン飲み会をすること、また終わりの時間を決めておくことなどが望ましいでしょう。

前回も述べましたがコロナ禍によって生じたさまざまな不便は、本当に必要なものとそうでないものを見極めて取捨選択し、自分にとって大切なものの価値を再発見できるチャンスでもあります。世界中がコロナ危機という大きな苦難に見舞われている中で、これを乗り越えた先に必ず、社会がより理想的に変化することができる可能性があると信じます。

(写真はイメージ)

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