ハコネサンショウウオの新種を発見 日本の生物多様性解明に貢献

国立科学博物館は3日、紀伊半島から北陸・中部地方にかけての本州中部に分布するハコネサンショウウオ属の未記載種を新種として登録したと発表した。炎のような美しい赤色の斑紋にちなんで、和名は「ホムラハコネサンショウウオ」と提案されている。この研究成果は、2月出版の爬虫両生類学の国際誌「Current Herpetology」誌に掲載された。

日本列島には現在45種のサンショウウオ科に属する小型の両生類が生息する。ハコネサンショウウオ属(Onychodactylus)は、山地の渓流やその周辺に生息する小型サンショウウオのグループ。近年の研究により分類が急速に進み、日本産種の数が10年前の1種から6種まで増加していた。これらの種は外部形態が非常によく似ており、DNAの解析手法の発達によって多様性の実態が解明され、種の分類が促進されてきた。

そのような中で、近畿地方を中心とした本州中部には「ハコネサンショウウオ近畿型」と呼ばれる、固有の遺伝集団が存在することが明らかになってきた。「近畿型」は四国産のシコクハコネサンショウウオに近縁だが、形態比較などの分類学的研究に必要な成体の標本を得るのが難しく、その種としての地位は確定していなかった。

国立科学博物館 動物研究部の研究グループは、紀伊半島から近畿、北陸、中部地方にかけての本州中部のハコネサンショウウオ属の標本を収集・調査した。その結果、「近畿型」は外部形態では同属の近縁種に非常によく似ていたが、背面に赤色~ピンク色の鮮やかな斑紋をもつこと、腹面に多数の細かい白点をもつことが大きな特徴であることが判明、一部の集団を除いて他種と識別可能であることがわかった。

そこで「近畿型」をOnychodactylus pyrrhonotus Yoshikawa and Matsui, 2022 という新種として登録した。「pyrrhonotus」は「火の色の背中」を意味し、本種の背中にみられる鮮やかな赤色の斑紋にちなんで命名された。和名もこの体色を炎の色に例え、「ホムラハコネサンショウウオ」が提案されている。この種は本州中部(岐阜県・石川県・福井県・滋賀県・京都府・三重県・奈良県)から広く分布が確認され、今回の研究で岐阜県・石川県でも新たに生息が確認された。

分子系統解析では、本種は同所的に分布する狭義のハコネサンショウウオ O.japonicus と明確に異なること、四国・中国山地産のシコクハコネサンショウウオ O. kinneburi に最も近縁であることが改めて確認された。後者は近畿地方(特に紀伊半島)と四国の山地が過去にはつながっていたことを示す生物地理学的な例の一つと考えられる。

この研究により、日本列島に分布するサンショウウオ科の種数は46種、ハコネサンショウウオ属としては7種となった。日本列島はサンショウウオ科両生類の種多様性と固有性が世界で最も高い地域だが、今回の発見はその多様性の全容把握とその形成史の解明につながるものの一つと期待される。その一方で、2020年版環境省レッドリストには日本産サンショウウオ科の41種(89%)が絶滅危惧種・準絶滅危惧種として掲載されており、今回新種登録されたホムラハコネサンショウウオも絶滅が危惧される種だ。開発による生息地の環境悪化などに対して、種の保全に向けた早急な対策が求められる。

2021年までの日本産ハコネサンショウウオ属6種と「近畿型」の分布

画像提供:国立科学博物館