肥満を抑制する褐色脂肪細胞の活性化のメカニズムが明らかに 九州大

肥満を抑制する褐色脂肪細胞の活性化のメカニズムが明らかに 九州大

九州大学の藤井雅一非常勤講師らは、体内の脂肪を燃焼して熱を産みだす「褐色脂肪細胞」を活性化させるメカニズムの研究に取り組み、活性化を促進する因子を褐色脂肪細胞自身で分泌し利用することで、持続的に脂肪燃焼を可能とする新たな仕組みを解明した。今後、根本的な肥満治療薬の開発につながることが期待される。この研究成果は8月10日に国際学術誌「iScience」に掲載された。

肥満は生活習慣病、動脈硬化性疾患および癌の発症にも関連しており、根治を目指すべき疾患と考えられている。しかし、現状では減量以外に安全性・有効性が保証された根本の治療法が確立されていない。昨今では、リモートワークの普及など、ライフスタイルの変化に伴い日常生活での活動量が減少しているため、肥満症の増加が強く懸念されており、根本的な肥満解消を目指す新しい治療法の開発が望まれてきた。

研究グループは、生体内のミトコンドリアに存在する「ミトコンドリア転写因子A」というタンパク質を過剰に発現させたマウス(TgTg)由来の褐色脂肪細胞は、野生型マウス由来の細胞と比較してミトコンドリア機能が活性化しており、より多くの細胞外小胞(エクソソーム)を分泌することを明らかにした。また、野生型由来の褐色脂肪細胞にTgTg細胞由来の培養液から抽出したエクソソームを加えて培養すると、エクソソーム濃度に応じて褐色脂肪細胞が活性化することも明らかになった。更に驚くべきことに、TgTgマウスの褐色脂肪細胞を野生型マウスに移植すると、高脂肪食摂取に対する著明な体重増加抑制が認められ、強力な抗肥満効果を示すことがわかった。エクソソームを分泌した細胞自身やその周囲の細胞がエクソソームを取り込み、褐色脂肪細胞の活性化遺伝子・蛋白発現が上昇するといった自己活性化メカニズムによって持続的に熱産生が上昇し、強力な抗肥満効果を示していることが考えられるという。

生体内に存在するエクソソームによる褐色脂肪細胞活性化メカニズムが解明されたことで、肥満治療に求められる安全性・有効性という重要な条件を満たす新たな治療戦略が示されることとなった。今後、エクソソームを始めとする細胞外小胞の分泌促進に寄与するミトコンドリア活性化剤や安定的なエクソソーム回収法の確立等により、根治的肥満治療法の開発へ大きく貢献するものと考えられる。

画像提供:九州大(冒頭の写真はイメージ)