生態系再生を目的とした野山へのオオカミ再導入に関する意識調査を実施 立命館大

立命館大学は6日、生態系の再生のために日本の野山にオオカミを再導入するべきかについて1万人を対象とした大規模な意識調査を行ったと発表した。その結果、オオカミの生態系の中での役割が認識されるとともに、人々の再導入への意識が肯定的な態度へ変わっていく可能性があることが示された。この結果は生物多様性保全分野の国際学術誌に掲載された。

生物の多様性は環境問題の中でも切迫した課題であり、今ある自然環境を守るだけでなく、積極的に生態系を回復・再生させる必要があることが世界の多くの国で認識されるようになってきた。

食物連鎖における上位の捕食者が絶滅した生態系では、草食動物などの被食者が爆発的に増加して生態系全体に影響を及ぼしている。捕食者の再導入は生態系プロセスを回復させる取り組みとして重視されるようになっている。例えばアメリカのイエローストーン国立公園では、一度絶滅したオオカミをカナダから再導入したところ、シカ類の数が抑制されて植生が回復したことが知られている。日本でもこれまでにトキやコウノトリを再導入した例がある。しかし、オオカミなどの哺乳類の捕食動物の再導入について公式の場で審議することがほとんどなかった。

立命館大学の研究グループは、オオカミ再導入の是非に関する意識調査を実施。オンラインアンケートによる1万2,000人の回答者の中で性別・年齢・居住地が日本の構成と等しくなる7500人を抽出して分析した。

回答者の大半がかつて日本にオオカミが生息していたこと(89.9%)、1900年代に絶滅したこと(63.0%)を理解していたが、過半数(69.0%)がその絶滅要因を知らなかった。過半数が再導入したオオカミは外来種となり生態系に悪影響を及ぼすと考え(53.3%)、またオオカミが人を襲うことを心配していた(59.3%)。

生態系の再生を目指してオオカミを野山に放すことに対しては、回答者の39.9%が反対、17.1%が賛成、最も多かったのは「賛成とも反対とも言えない」(中立)43.3%であった。

回答の分析の結果、多くの回答者が中立の立場を示しており、明確な答えが導き出せない難しいテーマであることが分かった。オオカミ再導入に反対する理由の一つが、「再導入されたオオカミが外来種となって生態系に悪影響を及ぼす」ことであるが、日本に生息していたオオカミはDNA解析からアジアの近隣地域に現存するオオカミと同種であることが分かっている。このことや生態系の中でオオカミが果たす役割について人々の理解が深まれば、オオカミ再導入についての日本人の態度が肯定的なものになることが示されたとしている。

今回の研究によって、絶滅種の再導入も含めた生態系再生のために、教育や普及啓発をもとに社会的合意が得られる社会を築くことが可能であると新たな知見を示すことができた。同研究グループは、今後もこの問題に対する人々の意識について調査を続け、目指すべき生態系の姿について継続して考えていきたいとしている。

日本にオオカミを再導入することに対する態度や行動意図に関する最終モデル(n=7,500、RMSEA=0.070、GFI=0.808、CFI=0.843、x2=33490.906)。数値は全て偏回帰係数(関係性は全て 0.1%水準で有意)

画像提供:立命館大学(冒頭の写真はイメージ)