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[書評]『福島モノローグ』自分のできることを自分の場所で

作家でもありクリエーターでもあるいとうせいこう氏は、東日本大震災による死者をテーマにした「想像ラジオ」という小説を書いた。できあがった小説の山を見たとき同氏は、「自分は勝手にしゃべってしまった。次は聞く番だ」と感じたという。それ以降は福島の人に話にひたすら耳を傾けた。傾聴に徹し、ただ聞き書きし、自分の言葉を少しも入れたくなかったのでモノローグ形式でまとめたというのが本書だ。

震災後、人間と一緒に避難できなかった牛たちを探して保護していた女性、避難先の施設でラジオ局を開設し、避難所の人たちを笑わせた女性、原発事故で飛散した放射能から子供を守るために他県に避難した女性。震災前からの生まれ故郷を回想してくれる女性もいれば、震災後に見出した自分の役割を全うしようとしているもいた。

みんな自分がいる位置で、自分ができることを、一生懸命やっていた。当時、確信をもってやっていたかというと嘘になり、前に進むのは手探りだったし、日常は不安だったし、試行錯誤の連続だった。ただ、行動したときに助けてくれる人がいて、だから頑張ることができて、今の生活につながっているという。本書では震災後に自分がいる場所で、やるべきことをがむしゃらにやった人たちの当時の心の声を読むことができる。

今の自分が過去の自分を振り返れるくらい落ち着いたときにこうして語ることができるのは、話を聞いてくれる人がいるからなのかもしれない。この本は「聞く仕事、聞き屋稼業みたいなものがとくに災害のあとには長く必要なのではないかと思う」という、いとう氏の言葉を体現した一冊でもある。

『福島モノローグ』
著者:いとうせいこう
発行日:2021年2月28日
発行:河出書房新社