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高知東生さんが山口さんに発した、依存症リカバリーが持つメッセージの力

高知東生さんが山口さんに発した、依存症リカバリーが持つメッセージの力

元TOKIOメンバーの山口達也さんが、酒気帯び運転で現行犯逮捕されたニュースが報じられています。以前にも飲酒が原因で問題を起こし、所属事務所との契約解除にまで発展する騒動を起こした山口さんに対し22日、俳優の高知東生たかちのぼるさんがツイッター上で「自助グループにつながってほしい」と呼びかけました。自らが薬物依存症の「リカバリー(回復者)」であり、依存症問題の啓もう活動にも取り組んでいる高知さんの言葉は、大きな反響を呼んでいます。一連の出来事について、アルコール依存症専門医の垣渕洋一先生にお話を伺いました。(インタビュー・構成:見市知)

解説:垣渕洋一
成増厚生病院・東京アルコール医療総合センター長
専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健
資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医

 

―高知さん自身、2016年に覚せい剤取締法違反で懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を受け、薬物依存症の治療と自助グループでのサポートを受けてリカバリーの道を歩んでいます。その後、ツイッターで発信を始められ、心無い言葉を投げつけられたことも多くありましたが、今回は好意的な反応が多く集まっています。ここ数年の世の中の変化をどのように見られますか?

私自身、依存症の専門医としてこのような出来事への取材を受けることが多いのですが、以前ならば記者が、人格の問題であるとか、本人の意思が弱いといった観点で書きたがる傾向がありました。それに対して依存症を疑うべきであることを話し、依存症がどういう病気なのかについて一から説明することが多かったです。今回もさまざまなメディアから問い合わせをいただきましたが、そういう説明をする必要はありませんでした。高知さんのメッセージの取り上げ方や、報道に対してのコメントを見ても、漸進的ぜんしんてきではありますが確実に、依存症について正確に理解している人が増えていると考えます。
 

―高知さんは「依存症は根っこは同じなんです。山口さん今度こそ俺達の自助グループに繋がって欲しい。山口さんの辛さや孤独を一番理解できると思う」と呼びかけています。この呼びかけは依存症の状態にあるけれどそれを認められずにいる本人にとって効果的でしょうか?

効果的だと思います。なぜなら高知さんのメッセージには依存症の深み、回復の大変さと喜びなど、回復者だからこそ語れる内容が入っているからです。
依存症者として生きていると、人間関係も自分の健康も損なわれていき、辛く孤独な状態になってしまい、それがさらなる飲酒の誘因になります。もがくほど深みにはまってしまい、一人では出てこられない蟻地獄のようなものです。家族だとしても命綱を当事者がつかめるように出してあげるのは難しいものです。しかし、その苦しみを知っている回復者は、命綱を投げてあげる術を知っているのです。

 

―専門医療機関で治療を受ける以外に、なぜ自助グループの存在が大切なのでしょうか?

医療者は当事者に対し、何が異常であり病気なのか、どうすればよいのかを説明することはできても、依存症から立ち直るために実践している姿を生活の中で見せてあげることはできません。しかし長年、依存症の思考で行動してきた人にとっては、医療者の説明を理解できたとしても、いざ飲酒の引き金となる状況に生活の中で遭遇したとき、上手く行動することは難しいのです。だから、ロールモデルとなる回復者と行動をともにして、健康な思考と行動を学ぶことが大切です。

また依存症には再飲酒や再発(1回だけ飲酒してしまうのではなく、元のような飲み方に戻ってしまうこと)がつきものです。そうなってもそのことを責めるのではなく理解し共感し、再び回復に挑戦しようと応援してくれる人が必要です。その役割を果たせるのが自助グループの仲間たちなのです。
 

―高知さんは「依存症に叱責やバッシングは役に立たないと知って貰えたら有難い。理解して貰えないかもしれないが、依存症者は常に自分を厳しく責め、罰している。それでも止められず、もっともっとと責め続ける。その自分責めが苦しくて依存を繰り返してしまう。だから回復には同じ経験をした仲間の支えが必要なんだ」ともツイートしています。有名人がこのような事件を起こしたときに、私たちが心がけるべきことは何でしょうか?

高知さんが発信されている言葉は依存症者を理解し、共感を寄せる上で、ぜひ多くの人に知ってほしい内容です。一方で、ふだん不平不満をもって生活している人にとって有名人の不祥事や事件は、溜飲を下げる格好の材料になり、メディアがそれを取り上げると視聴率も部数もアクセス数も上がります。報道関係者も視聴者もその負の構造を理解し、そういった誘惑から距離を置くことを心がけてほしいです。また依存症は、どんな人でもなり得る病気です。自分や家族、または親友がもし依存症になったら、どのように接するだろうか?ということを想像してほしいです。
 

―依存症の人は最初、自分が依存症であることをなかなか受け入れられないと言います。この最初のハードルをクリアするためには、どうすればよいのでしょうか?

依存症に対して誤解と偏見をもって上から目線で見ていた人ほど、その目線で自分を見ることに抵抗して、受け入れられません。それを解くためには、他人にどう思われるかを気にするのではなく、自分の中にある誤解と偏見を解くための行動が必要です。

そして自分で自分のことがわからなくなるのが依存症の特徴でもあります。ほかの依存症者に実際に会ってみて、その人を鏡として自分を映し出してみてこそ、理解して受け入れることにつながります。

また、「世界で依存症なのは自分一人だけ」と思っていると、受け入れるのが難しいです。同じような苦しみを負っている人たちが大勢いるということ、依存症者の中にも多様な人たちがいることを知ると、誇りを持って受け入れる道が開けていきます。

(写真はイメージ)
 

【依存症問題を抱える人のための相談・問い合わせ先機関】
依存症対策全国センター
ジャパンマック

特定非営利活動法人アスク(ASK) アルコール薬物問題全国市民協会
全日本断酒連盟
日本アルコール関連問題学会
JMSAAS 日本アルコール・アディクション医学会
AA日本ゼネラルサービス

ギャンブル依存症回復施設 グレイス・ロード
ギャンブル依存支援施設 ワンデーポート

薬物依存症回復施設DARC 日本ダルク
 

リカバリーカルチャーって何?(1)語り始めた依存症からの「回復者」たち【前編】

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