牧野富太郎博士ゆかりの絶滅危惧種ムジナモの国内自生地を発見

牧野富太郎博士ゆかりの絶滅危惧種ムジナモの国内自生地を発見

中央大学、新潟大学、国立環境研究所は18日、絶滅危惧種ムジナモの自生個体群が石川県内の農業用ため池において発見されたと発表した。ムジナモは国内では1980年に牧野富太郎博士によって発見されたが、1960年代後半までに国内のすべての野生個体群が消滅していた。今回発見された個体群は、「人為導入に由来しないと推測される国内唯一のムジナモ個体群」となる。生物多様性分野の国際学術誌『Journal of Asia-Pacific Biodiversity』に論文が掲載された。

ムジナモは地面に固着しないで水に浮いて生育する食虫植物で、世界ではアフリカ、オーストラリア、ユーラシア、そして日本での分布が知られている。現在は減少が著しく、世界全体で50か所程度でしか生育していないとされ、IUCN(国際自然保護連合)による世界全体のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)では「絶滅危惧(EN)」とされている。

日本では1980年、牧野富太郎博士によって東京の江戸川のほとりの用水池において発見されて、ムジナ(アナグマ)のしっぽに似ていることからこの和名が付けられた。数々の発見をした牧野博士にとっても特別なものであり、博士の描いた詳細な写生図がドイツの書籍に掲載されて、博士が世界的に知られるきっかけにもなった。

日本では1960年代後半までに、池の埋立てや水質の悪化などのためにほぼすべての自生地で消失。現在では自生地の消失前に移植した個体の再導入による個体群が埼玉県内と奈良県内に存在するのみとなった。日本のレッドリストでは、絶滅の危機のレベルが最も高い「絶滅危惧IA類」 となっている。

今回発見された個体群は現地調査と遺伝子解析の結果から、人為的に導入されたものではなく、環境改善の結果出現した自生個体群である可能性が高いと判断された。最近になってため池の周辺の樹林の間伐が行われており、日照条件の改善によりムジナモの発芽が促された可能性がある。

牧野富太郎博士ゆかりの絶滅危惧種ムジナモの国内自生地を発見

左: ムジナモの個体(3個体)。右: 輪生する捕虫葉(葉が変形した器官でプランクトン等を捕らえて消化する)。

今回の発見によって、生物多様性保全上重要なため池が今後も発見される可能性があること、現時点での生物相だけでなく周辺環境の改善により絶滅危惧種が出現する場合があることが示された。農業の近代化に伴って管理放棄や埋立ての対象になりがちな小規模なため池が、生物多様性保全の上でかけがえのない価値を有することもあるとしている。

写真提供:新潟大学