渓流に生息するサワガニが、海流によって分布を広げた可能性を指摘 信州大

渓流に生息するサワガニが、海流によって分布を広げた可能性を指摘 信州大

信州大学、筑波大学、基礎生物学研究所は10日、日本列島のサワガニの分布を網羅する遺伝子解析をした結果、分布を広げる過程で陸路だけでなく海流を使った可能性があることを発見したと発表した。この研究成果は国際動物学術誌にオンライン掲載された。

サワガニは北海道を除く日本列島の渓流や里山の水田・水路などの淡水に広域に生息する身近な生き物であり、地域によっていろいろな体色のものがあることが知られている。一方で、サワガニが日本列島にどのように分布していったかはこれまで明らかになっていなかった。

日本列島におけるサワガニの体色多型。地域集団によって体色は多様。A) 長野県、B) 佐渡島、C) 九州、D) 伊豆半島の地域集団

研究グループは、日本列島のサワガニの分布域を網羅するような広域的な地域集団を対象に126地域の268個体を試料として、遺伝子を抽出して分子系統解析を実施した。サワガニの近縁種が西南諸島に比較的種類が多いことと東南アジア地域での種多様性から、日本産サワガニは日本列島の南西地域に起源してより北方へと分布域を拡大していったと考えられた。

主要な遺伝系統は基本的には、本州、四国、九州といった主要島ごとの遺伝分化があり、より小さな離島にも固有の系統があった。サワガニは移動能力が低いが陸上を歩行することができるので、陸続きの同一島内では移動分散が可能であると考えられる。

しかし、例外的な系統が伊豆半島、三浦半島、房総半島に見られ、これに最も近縁なものは九州や北琉球の集団であった。こうした遺伝子系統が「飛び地」的に分布するのは、黒潮による海流分散によるものではないかと思われた。そこでサワガニが海水と同程度の塩分濃度で生きられるかを実験したところ、2週間程度の実験では高い生存率が示された。南西諸島のサワガニ生息地には渓流のまま海に注ぐ小規模河川が多く、洪水によりサワガニも海に流されることが頻繁に生じると考えられ、黒潮の流路先へ漂着する可能性も十分にありうる。

海流分散により分布拡大した系統では体色の青いものが優占しており、陸路と海路それぞれで分散した系統が二次的に接触する地域では体色に2色のものも存在する。体色の違いと系統の関係性を調査することは興味深い課題であり、今後はより詳細な解析を展開していくとのこと。

写真提供:信州大学(冒頭の写真はイメージ)