ニホングリの遺伝子解析により栽培過程を解明 農研機構など

農研機構、岡山理科大学、秋田県立大学は22日、日本原産のニホングリの遺伝子解析を行ったところ、それが九州、西日本、東日本の野生グリと、栽培グリの4つのグループに分かれることが明らかになったと発表した。また、クリの栽培は従来の通説とは異なり、縄文時代以前から始まって複数の地域での人為的な選抜など、複雑な過程を経ている可能性が示された。

この研究は、ニホングリの栽培化過程の解明に役立つとともに、クリ遺伝資源の有効な保存と多用な遺伝資源を利用したクリの品種育成に貢献することが期待できる。今回の研究成果は国際学術誌に掲載された。

ニホングリは日本原産の果樹であり、縄文時代の遺跡から出土し、日本書紀や古事記などの古文献にも記載がある重要な食用作物である。従来の通説では、有史以降に大阪府、京都府、兵庫県にまたがる丹波地方が栽培グリの代表的な産地になり、江戸時代以降に多くの品種や栽培技術が全国に広まったとされていた。シバグリと呼ばれる野生グリは元々果実が5g程度と小さいが、今日私たちが食するクリは果実重が30gに達するまで大きくなっている。しかし、これまでにニホングリの栽培化の歴史を裏付ける科学的証拠が乏しく、その起源についてわからないことが多かった。

兵庫県の野生グリ(ジバグリ、左)と栽培品種「銀寄(右)」

同研究グループは、日本全国に分布する野生グリと品種化されている栽培グリ845個体45品種の遺伝子構造を解析した。その結果、九州地方、西日本地方、東北地方の野生グリ、栽培グリの4つのグループに分けることができた。そのうち九州地方の野生グリはその他のクリと遺伝的に大きく異なっていた。

各グループの分岐時期は、九州の野生グリが約5万年前に分岐し、その後の約2万年前に西日本地方、東北地方、栽培グルの3つのグループが同時期に分岐したことがわかった。これによって野生グリと栽培グリの分岐は縄文時代以前から始まっていることが示唆された。

また栽培グリは野生グリのいずれの集団からも遺伝的に離れており、特定の地域の集団から派生したものではない、日本国内の異なる地域からの持ち込みや複数の地域での人為的な選抜など、複雑な栽培化過程を経ている可能性が示された。

さらに、野生グリ集団に対して栽培グリから遺伝子が交雑する遺伝子流動が見られた。このことから、野生グリの遺伝的多様性の保全には、公的な機関などで遺伝資源として厳格に保存することが重要であるとの知見が得られた。

この研究により、ニホングリの栽培化の歴史の解明につながるとともに、野生グリ遺伝資源の保存やクリの品種育成に貢献することが期待できる。特に九州の野生グリ集団は現在より温暖な気候に適応していたために、気候変動に対応する素材として有用で、今後の新品種の育成に利用していくとのこと。

国内で採取した野生グリ集団の遺伝的構造

画像提供:農研機構(冒頭の写真はイメージ)