[書評]『昭和16年夏の敗戦』若き精鋭たちが出した結論

昭和16年8月――終戦の4年前、そして真珠湾攻撃に端を発する太平洋戦争の開戦4カ月前。本書『昭和16年夏の敗戦』は、その時点で「日本必敗」という結論に至った“ある研究生たち”と、彼らが取り組んだ政策演習「机上演習」を取り上げている。

研究生とは、当時の中央省庁や軍部、一部の民間企業などから選抜され、内閣総理大臣直轄の機関「総力戦研究所」に集められた平均年齢33歳のエリートたちだ。彼らは「模擬内閣」の閣僚や高官役を担い、与えられた情勢設定に対して、軍事だけでなく外交や国内経済など多角的に分析を行い、政府としての政策立案に取り組んだ。著者の猪瀬直樹がこの机上演習のやりとりの再現を試み、「極東国際軍事裁判記録」の他に、著者自身による当時の研究生への聞き取り調査、彼らが提供した当時の日記などの資料をもとに書き上げられた。

本書は、総力戦研究所と命名された機関が設立された経緯、当時の国際情勢、国内の政治体制にも触れた解説書的な側面を持つ一方で、パラレルワールドのように展開される模擬内閣の閣僚たちの群像劇としても読むことができる。読み進めるうち、知見を現実に活かせない意思決定の構造に、歯がゆさや既視感を覚える読者も少なくないだろう。

歴史に学ぶことの大切さは、これまでも多くの識者が繰り返し説いてきた。だが改めて、私たちは本当に歴史から学んでいるのか――そう問いかけてくる一冊である。

 

『昭和16年夏の敗戦 新版』
著者:猪瀬 直樹
発行日:2020年6月25日
発行:中央公論新社

(写真はイメージ)