
[書評]量子力学100年に読む、江崎玲於奈の人生と思想『限界への挑戦』
今年2025年は、ハイゼンベルクが行列力学を発表し、初めて量子力学の理論を体系立てた1925年から100年目に当たる。江崎玲於奈氏は、この量子力学100年に生誕100年を迎えて今も存命のノーベル物理学賞学者だ。今回取り上げるのは江崎の自伝である。
本書の第一章「私の履歴書」は、日本経済新聞に2007年1月に掲載されたもの。大阪で建築技師の次男として生まれ、「レオナ」という特異な名前は獅子(レオ)のごとく王者になれという願いから付けられたものだという。
1947年に東京帝国大学理学部物理学科を卒業後、壊滅した日本の工業に量子力学の洗礼を受けさせたいと考え、神戸工業に就職した。1948年のトランジスタ発明を機に半導体研究に取り組む。1956年、東京通信工業(現ソニー)に転職し、量子力学的トンネル効果を利用した「エサキ・ダイオード」を発明して注目された。
米国でしかできないスケールの大きな仕事をしたいと思い、1960年、米国IBMに入社。半導体単結晶に周期的な構造変化を組み込む半導体超格子の研究で成果を上げる。1973年、半導体中のトンネル効果の実証に対してノーベル物理学賞を受賞した。
1992年、筑波大学の学長に就任し帰国。その後も教育改革国民会議座長、芝浦工業大学学長、横浜薬科大学学長などを歴任した。この時期に書かれた学術・教育に関する文章や学生に対する学長告示などが、第二章「私とサイエンス」、第三章「未来に生きる人たちへ」に収録されている。
江崎は、科学者の生きがいは科学の限界に挑戦してそれを打ち破ることだという。研究には、論理的・理性的なロゴス面と主観的・情緒的なパトス面の二面性があって、その両方が重要だとしている。量子力学において、電子に粒子性と波動性の二面性があるために、壁という限界を突き抜けることが可能になるように、という比喩が印象的だ。
本人自らがモビリティー(移動性)が高い人生だったと述懐しているように、住む場所を変えるとともに人生のステージを変えてきた。ソニーへの転職においては悶着が起こり嫌がらせも受けたが、よりよい研究環境を求めて突き進んだ。また、渡米する際にIBMを選んだのは、中央研究所を建築中で、自分で主導権を持つ仕事ができそうだと考えたからだった。企業の中での研究者として成功するために、新しい研究分野を開拓することや、成果や応用までを視野に入れることなどの視点を常に持っていた。
筆者自身も物理学専攻で企業で働いてきたので、共感するところが多かった。後半は教育者として若い世代に語りかける文章も多く、生誕100年の機会に多くの人に手に取ってもらいたい一冊である。
『限界への挑戦:私の履歴書』
著者:江崎玲於奈
発行日:2007年9月25日
発行:日本経済新聞出版
(写真はイメージ)
【書評】科学者の随筆・評伝

