継続観察で見えてきたシカとカモシカの関係性 農工大など

東京農工大学と山梨県富士山科学研究所の研究グループは12日、シカとカモシカの直接的な交渉を8年間直接観察、シカからカモシカへの攻撃は観察されなかったのに対して、カモシカからシカへの攻撃は多数観察されたと発表した。この研究結果はオランダの行動学雑誌にオンライン掲載された。

複数の動物種間の競争がどのように生じるかは、生態学の主要な課題の一つである。蹄を持つ有蹄類は世界中に広く分布する草食動物で、種間競争に関する研究が盛んに行われてきた。だが、これまでの研究のほとんどは食物の取り合いによる「消費型競争」についてのものであり、二つの種が出会った時の「干渉型競争」に着目した研究はとても少なく、実態がよくわかっていなかった。

シカとカモシカは日本の様々な地域において同所的に生息する有蹄類だが、両者は性質が大きく異なる。体のサイズについて、シカは60~100kg前後と大柄であるのに対して、カモシカは40kg前後と小柄である。また、シカが群居性で時には100頭以上の群れを作るに対して、カモシカは基本的に単独だ。シカがなわばりを持たないのに対して、カモシカはなわばりを持つという。

このように性質が大きく異なる2種が出会ったときにどのような交渉が起きるのか、同研究グループは、長野県浅間山の高山高原(標高1900~2404m)において直接観察による長期調査を実施した。

直接観察による調査を2015年4月から2022年12月の8年間に合計337日間実施たところ、合計64回のシカとカモシカの出会いを観察できた。調査によると、シカからカモシカへの攻撃は一度も観察されなかったのに対し、カモシカからシカへの攻撃は「歩いて接近」「走って追いかけ」「威嚇声」「足の踏み鳴らし」などの10例(15.6%)が観察された。ただし、カモシカが実際にシカを追い払えたのは 2 例のみで(3.1%)、ほとんどの場合シカはカモシカの攻撃を気にしないか、数mよけてその場に居座り続けた。

これらのことより、シカはカモシカの存在に対して基本的に無関心であるのに対し、カモシカはシカの存在に敏感に反応することが示された。この反応の違いは、2種の社会性の違いを反映し、群れでなわばりを持たずに生活するシカは、周りに同じ植物を食べる別の動物がいても危険がない限りはどうでもよいのに対し、単独でなわばりを持つカモシカはシカが自分のなわばり内の食物を食べることを気にせずにはいられないのではないかと考えられるという。

カモシカのシカへの過剰な反応は、採食効率の低下や生理ストレスの増加を招き、個体の生存や繁殖に負の影響を与える可能性がある。実際、浅間山の高山草原では2000年代に生息していなかったシカが増加し、カモシカの個体数が徐々に減っているという。同グループは、カモシカを含めた高山生態系の保全のために、進出してきたシカの管理を行う必要があることがこの研究により裏付けられたとしている。

山で出会ったニホンカモシカ(上・成獣メス:ベジータ)とニホンジカ(下・成獣オス)。互いを警戒し、見つめあっている。この時は 2 種ともに単独であった。この後カモシカは警戒をしばらく続けたのに対し、シカは採食しながら移動していった。

画像提供:東京農工大学(冒頭の写真はイメージ)