トキ 絶滅の危機から「野生復帰」までの長い道のり

10月29日、午前10時頃、新潟県佐渡市の新穂付近の田んぼから、紅色の羽を大きく羽ばたかせて飛翔する野生復帰した3羽のトキを見た。「なんて美しい鳥なのだろう」勇壮で神秘的なトキの姿を初めて見ることができ、興奮した。地元の人でも、自然界にいるトキの飛ぶ姿を見ることは難しいという。まさにトキめきの瞬間だ。

トキはニッポニア・ニッポンという学名で、ペリカン目トキ科に分類される。江戸時代までは日本の各地に生息し、人々の生活の中に溶け込んでいた。しかし、明治時代以降は、乱獲によって数が減り、昭和以降になると農薬の多用など生息環境の悪化で、絶滅寸前まで追い込まれた。1952年には特別天然記念物に指定され、1960年には国際保護鳥に選定されたが、1981年に佐渡の山中で最後の5羽が捕獲され、日本のトキは自然界から姿を消した。

同じ1981年の5月、絶滅したと思われていた中国で、7羽のトキが発見された。1985年その中国から「ホアホア」という1羽のトキを借り受け、日本最後の1羽となった「キン」との繁殖を試みたが、うまくいかず、1999年再び中国から譲り受けたトキのペア「ヨウヨウ」と「ヤンヤン」が日本に到着し、同年5月にはじめて人工繁殖に成功した。「ユウユウ」の誕生だ。2003年10月、日本最後の野生のトキ、「キン」が36歳で死んだ。

2007年には、環境省が野生復帰ステーションを佐渡市新穂に開設。この頃には自然繁殖した11ペアから14羽のヒナが生まれ、育つようになった。2008年9月25日、10羽のトキを初めて自然界に放鳥する。日本の自然界からトキが姿を消してから27年ぶりとなる。第1回目のこの放鳥は、1羽ずつ放鳥箱に入れ、一斉にふたを開けるハードリリース方式がとられた。2回目以降からは、ケージの扉を開放し自然に飛び立つのを待つソフトリリース方式がとられるようになった。

環境省では、関係機関や地域の人々と共に、2003年3月に「環境再生ビジョン」を策定し、この時に「2015年頃には、小佐渡東部に60羽のトキを定着させる」という目標を掲げていた。その2015年になる今年、11月6日現在で自然界に生存しているトキの個体数は158羽が確認されている。(野生復帰ステーション調べ)

野生復帰ステーションでは、これまでのトキ野生復帰の取り組み成果を振り返り、次期の目標に向け、新たな次元で野生復帰について考える「トキ野生復帰2015シンポジウム」を11月22日、あいぽーと佐渡(新潟県佐渡市)にて開催する。日本初の試みとなったトキの野生復帰。野生復帰ステーションでは、より自然に近い環境下で採餌や繁殖といった基本的な生存能力をトキに身につけさせながら、放鳥のための訓練を行っている。新たな歴史の時を刻むトキの姿を続けて注目したい。

「野生復帰ステーション」ホームページ
http://tokihogocenter.ec-net.jp/station/