京都大学がプラスチック太陽電池の発電メカニズムを解明 効率的な材料設計が可能に

京都大学は24日、有機半導体をフィルム状のプラスチックに塗って作る有機薄膜太陽電池(OSC)、いわゆるプラスチック太陽電池の発電メカニズムを解明したと発表した。これによってOSCの効率的な材料設計が可能になる。この研究成果は英国の国際学術誌「Energy & Environmental Science」に22日(現地時刻)にオンライン掲載された。

有機薄膜太陽電池(OSC)は有機半導体を発電層として用いた薄膜太陽電池の総称。印刷プロセスによる大量生産ができるとともに、安価かつ軽量で柔らかいという特長がある。また、室内光下で変換効率が高いという特性を持つことから、次世代太陽電池として注目されている。その実用化のためには発電効率の向上が最重要課題である。

従来のOSCでは高分子(プラスチック)材料である半導体ポリマーを正孔を運ぶp型半導体、フラーレン誘導体を電子を運ぶn型半導体として用い、両者のエネルギー準位差(オフセット)を駆動力として光電変換していた。このオフセットは0.3eV以上必要とされてきたが、大きなオフセットは発電効率とトレードオフになっていた。

近年はn型半導体として非フラーレン型電子アクセプター(NFA)が着目されている。NFAを用いた時にはオフセットが0.1eVほどしかなくても効率よく発電するために、従来のフラーレン系OSCをはるかに凌駕する19%以上の光電変換効率が報告されている。しかし、NAFを用いたOSCでなぜオフセットが小さくても効率よく光電変換できるかその発電メカニズムが解明されていなかった。

OSCの発電メカニズムを解明

京都大学大学院工学研究科 玉井康成 助教らの研究グループは、NFAを用いたOSCの発電メカニズムを明らかにして、明確な材料設計指針の構築に取り組んだ。今回の研究では半導体ポリマーにPM6という有機化合物、NFAY6という有機化合物を用いた。オフセットが0.1eV15%以上の光電効率を示して、現在最も盛んに研究されている材料の組合せである。

PM6Y6の界面で電荷が束縛された状態から自由電荷に解離する様子を計測したところ、10p(ピコ、10-12)秒程度の時間を要することがわかった。従来のフラーレン誘導体では0.1p秒程度であり、非常に遅い反応である。さらにY6のスペクトルの時間変化の計測から、時間とともに電荷がより結晶性の高い領域に移動していることがわかった。結晶状態の方がエネルギー準位が深いため、電子は結晶領域に移動することでより安定する。

OSCの発電層は、p型半導体とn型半導体の界面では材料の結晶性が低下していることから、発生した電荷がよりエネルギー的に安定な結晶領域に移動することで発電していると判断された。つまり、界面から遠く離れるほどY6の結晶性が向上し、それに伴いエネルギー準位が連続的に安定化することで、電荷が坂道を転がるように界面から遠ざかっていくと考えられる。

この研究によりOSCの発電メカニズムを解明したことにより、無限に存在する有機半導体の中からOSCの材料としての期待値が高い有望株を効率的にスクリーニングできるとしている。

 

図1. (左)n型半導体にフラーレン誘導体を用いた従来のOSCでは、半導体ポリマーとフラーレン誘導体のLUMOオフセットの大きさを駆動力として発電する。経験的には0.3eV以上の大きなオフセットがないと効率良く発電できない。一方、オフセットが大きいと開放電圧が低下してしまうため、電流と電圧にトレードオフの関係がある。(右)NFAを用いたOSCでは、半導体ポリマーとNFAのHOMOオフセットが0.1eV程度しかなくても効率良く発電する。これにより高い電圧と発電量を両立することができる。
図2. 半導体ポリマーに用いたPM6とNFAに用いたY6の化学構造式。

図3. 通常の過渡吸収信号(左)と過渡電場吸収信号(右)の違い。CT状態(電子と正孔がクーロン引力で束縛された状態)と自由電荷は同じ過渡吸収信号を示すため見分けがつかない(左)のに対し、過渡電場吸収信号の強度は電子と正孔の間の距離に依存するため、電荷解離が進行し、電子-正孔対間距離が大きくなるほど信号強度も大きくなる(右)。そのため、過渡電場吸収信号の強度を「ものさし」として用いることで、各時刻における電子-正孔対間距離を計測することができる。
図4. (a)通常の電荷信号と過渡電場吸収信号の時間発展を比較したもの。電荷信号が極大値を取るのに少し遅れて電場吸収信号が極大値を取る。これはCT状態が自由電荷に解離するまでに10ピコ秒程度の時間を要していることを示している。(b)過渡電場吸収信号の時間発展をGSBのピークシフトと比較したもの。両者のダイナミクスが一致していることから、PM6とY6のブレンド膜では結晶性の低い相分離界面で発生した電荷が、よりエネルギー的に安定な結晶性の高い領域を求めて移動することで電荷解離していることが分かる。

画像提供:京都大学