2025年、自然科学系の研究動向 カーボンニュートラル産業が様々進展

2025年もNEWS SALTでは数多くの自然科学分野の研究に関する話題を紹介した。記者が取り上げたさまざまな記事について、いくつかのテーマに分けて振り返ってみる。

カーボンニュートラル

2050年までにCO2の排出を日本全体として差し引きゼロにするというカーボンニュートラルを実現するために近年活発に研究がなされている。

政府が特に14分野の産業に力を入れている。そのうちでCO2を資源として有効活用を目指すカーボンリサイクルマテリアルについては、CO2からギ酸を大量生成する人工光合成技術があった。CO2を排出しないクリーンなエネルギーとして着目されている水素産業では、水素製造技術として、物理的に粉砕した物質を反応させるメカノケミカル法によって室温でも効率的に水素を発生させる技術水電解の過電圧を抑えて効率化する技術があった。そのままでは貯蔵・輸送が難しい水素を貯蔵する技術として、通常は水素によってもろくなる金属を逆に水素によって強化させるステンレス鋼や、水素を90℃という低温で可逆的に吸蔵・放出できる全固体電池があった。

水素と共に着目されているアンモニアについては、アンモニアを低温・低圧で合成可能な新触媒や、アンモニアを合成するパン酵母から作成した安価な触媒があった。

カーボンニュートラルとも関係しているが、コンクリート関係の記事が複数あった。普通のコンクリートは製造過程で大量のCO2が発生するが、その一方でコンクリート建造物に空気中のCO2が固定もされる。そのCO2固定量を推定する方法や、CO2を発生させる成分を別の材料に置き換えた低炭素コンクリートの研究があった。また、微生物がひび割れを修復するバイオマスコンクリートも研究されていた。

CO2の回収・貯留技術については、CO2を効率的に回収できる多孔材COFや、CO2地中貯留におけるCO2鉱物化のメカニズム解明があった。とくに後者については、地球温暖化対策の切り札になる可能性があり、今後の動向を注目していきたい。

CO2以外の主要な温室効果ガスN2Oについて、廃水から微生物によってN2Oを除去する手法の開発や、N2Oを分解する能力の高い根粒菌をダイズに共生させる技術があった。

それ以外の再生可能エネルギー技術として、海水と河川水を混ぜて発電する塩分濃度差発電の有用性見積り微細藻類のオイル生産効率を高める技術100℃以下でも機能する低温蓄熱材料があった。

環境問題

2025年の環境白書のテーマは、「『新たな成長』を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築」とのこと。今年取り上げたものでは、海洋汚染対策としてプラスティックに代わる透明な紙板の開発塩分の多い水中で有機物を光触媒で分解する技術廃棄物のもみ殻などから高性能次世代電池用触媒を開発する技術廃棄太陽光パネルからの希少元素アンチモンの回収手法があった。

農林業

バイオマスは生物に由来する再生可能な有機物資源のことであり、これを活用する取り組みが進んでいる。燃焼させてバイオマス発電に用いることもできるが、その副産物であるバイオマス灰の再資源化の研究がある。また、地球上で最も発生量が多いバイオマスである木の主成分のセルロースを効率的に糖に分解する方法や、稲の刈り株の糖質資源量の見積りがあった。

植物工場での生産技術の飛躍が目覚ましく、赤色レーザー光による室内栽培エダマメの安定生産を記事にしたが、一連の動向のまとめ記事も掲載された。今後は植物工場で葉物以外の野菜の生産も次々と可能になって行くだろう。

その他に、クルミの葉から他の植物の生育を抑える物質の新発見ミツバチダンスのAI解析による花資源の空間分布の地図化があった。

生物

生物分野では、サンゴが白化から回復した理由の解明サンゴの天敵であるオニヒトデを匂いを使って効率よく駆除する方法クマノミがイソギンチャクに刺されない理由の解明東京湾における希少鯨スナメリの生態の市民調査による研究があった。

生物の優れた機能を模倣して技術に取り入れるバイオミメティックスという研究手法があり、今年は、フクロウの翼を模倣したドローン用低騒音プロペラの開発を取り上げた。

地域

近年、地域の特産品をその地に近い大学が研究して地域活性化につなげようとする取り組みが見られる。今年は、琵琶湖固有の魚であるホンモロコの産卵環境の解明沖縄の衣服に用いられる芭蕉布の特性の解明があった。

ノーベル賞、イグ・ノーベル賞、他

今年は、坂口志文氏が制御性T細胞によってノーベル生理学・医学賞を受賞し、北川進氏が金属有機構造体(MOF)によってノーベル化学賞を受賞した。理化学系のノーベル賞を日本人が受賞したのは、2019年の吉野彰氏の化学賞受賞以来、日系人を含めても2021年の真鍋淑郎氏の物理学賞受賞以来となる。MOFの研究は2023年度に混合ガスからCO2のみを吸着する新素材の研究を当サイトでも取り上げていた。

その一方で、人々を笑わせそして考えさせるような研究に対して贈られるイグ・ノーベル賞を2024年に受賞した、お尻から呼吸する腸換気法がヒトで安全確認されたという記事もあった。イグ・ノーベル賞の日本人受賞は19年連続である。

記者がこれら以外に印象に残った記事として、スライムの触感を科学的に分析してアプローチしたという研究と、緩衝材の破裂音を非破壊検査に利用したという研究がある。前者はちょっとした疑問に日本を代表する研究者が本気で答えてみたというもので、後者は身近な素材の中から社会を支える技術の種を見出した研究だ。

今後も各分野の最先端の研究の他にも、「おやっ」と思うような記事を取り上げていきたいと思う。